世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2227
世界経済評論IMPACT No.2227

動態的視点から捉える地方創生論

村中 均

(常磐大学 准教授)

2021.07.12

 地方(地域)の人口減少とその衰退に歯止めをかけ,東京一極集中の状況を是正するため,地方創生として,具体的には,各地域が「第1期まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し,2015年度から2019年度にかけて,様々な施策を実施してきた。内閣府の資料を基に,2015年から2018年までの全国の変化を見てみると,例えば,合計特殊出生率は1.42と微減したが,就業者数は263万人増加し,有効求人倍率は1を超えるという成果があった。そして,2020年度から「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」が開始されている。これらの総合戦略では,KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)を設定し,それらの達成度の検証を行いながら,施策が進められている。

 地方創生とは,「まち」,「ひと」,「しごと」という要因によって地域を活性化することであり,まちを起点とするもの,ひとを起点とするもの,しごとを起点とするものの因果関係連鎖があると考えられる。これをプロセスあるいはフローチャートと呼ぶこともできよう。本稿ではそれらを起点とした,比較的簡潔で,代表的な3つの地方創生の因果関係連鎖について説明していくことにする。このことで,地方創生を動態的に捉えることが可能となる。

 第1に,しごと→ひと→まち,という因果関係連鎖である。地域でしごとをつくり,そのことでひとを呼び込み,まちが活性化する因果関係連鎖である。例として,人口約1,400人の岡山県西粟倉村の取り組みが挙げられる。西粟倉村では,ベンチャー支援と地域おこし協力隊を連動させた取り組み等により,村の基幹産業の林業を中心に30社以上の起業があり,移住者は100人を超え,現在では,仮想通貨を活用した独自の資金調達の手段である地方創生ICO(新規仮想通貨公開)の導入が検討され,村の課題を解決するための公民共創による複数のプロジェクトが実施されている。この因果関係連鎖は,人口減少が著しい,いわゆる限界集落的地域に有効な手段と考えられる。

 第2に,まち→ひと→しごと,という因果関係連鎖である。まちを整備することで,ひとが集まり,しごとがつくりだされるという因果関係連鎖である。例として,人口約42万人の富山県富山市の取り組みが挙げられる。富山市は,公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりを行ったことで,人口の社会増につながり,企業投資が増加し,複数の大手企業の進出にもつながった。人口20万人以上の地方の中核都市の多くは,地域の顧客に対してFace to Faceでサービスを提供するエッセンシャルワーカーが働くサービス産業すなわち第3次産業が基幹産業であり,まちの整備によって,ひとが集まり,そのことで関連するしごと(サービス産業)がつくりだされるという連鎖が生まれることになる。まちの整備は,ハコモノ行政と批判される向きもあるが,このロジックによる地方創生を踏まえれば,当該地域の特性にあった,ひとを呼び込むことにつながるハコモノでなくてはならない。例えば,高齢者に適した地方の中核都市で高齢者施設を中心にコンパクトなまちづくりを行い,そこにひとが集まれば,関連するサービス産業,例えば医療サービス,小売サービス,飲食サービス,さらに交通サービス等のしごとが再生されたり,自然に生まれることになろう。このことは,それらに従事するひとも生むことにつながっている。

 第3に,ひと→まち→しごと,という因果関係連鎖である。これは,第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略の中心課題の1つとなっている,ひとの育成,具体的には,観光以上移住未満といわれる,地域に関係した人材である関係人口の創出を起点とする。マッチングや受け入れ体制の整備等が課題となるが,このひとは,まち(地域と地域)とのつながりをつくり,地域外で当該地域に関係したしごとを行い,最終的には移住することにつながる可能性がある。新型コロナウイルス感染症の影響により全国でテレワークが普及し,2拠点生活や移住への関心も高まっており,実際に,東京都では,2020年7月から2021年2月まで8ヶ月連続転出超過となっており,東京一極集中の状況に変化が見られる。

 上記の地方創生の因果関係連鎖は,時間軸を置いた地方創生というプロセスで,どの要因が強調されるのかということ,すなわち具体的な政策手段の重点順序を意味しており,長期的なシナリオが示されている中で重要となるKGIやKPIが変化し,それらをモニタリングしていく必要性を指し示している。重要なことは,当該地域のビジョンや戦略に基づく因果関係連鎖でなければならないということであり,経済的観点からいえば,そのプロセスによって,生産(付加価値)と分配(所得)と支出(消費と投資等)の三面等価を成立させ,当該地域を自立的なものとして成り立たせるようしなければならないということである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2227.html)

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