世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2222
世界経済評論IMPACT No.2222

なぜ半導体が必要なのか?:戦闘事例に見る半導体事始め

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2021.07.12

 半導体の起源を論じるときに留意すべきは,もともと半導体,インターネット,GPS(全地球測位システム)などは,アメリカの国防・軍事目的で開発されたものだということだ。

 真珠湾奇襲を描いた映画「トラ・トラ・トラ!」(1970年に公開・アメリカの戦争映画)は,1941年12月の大日本帝国海軍による真珠湾攻撃をめぐる日米を題材に,日米共同スタッフ・キャストで制作された作品である。アカデミー視覚効果賞を獲得した。ゼロ型戦闘機が真珠湾を奇襲した時,米軍の戦闘機はなかなか離陸できず,ゼロ戦による爆撃を受ける羽目になった。どうしてか,諸氏はご一考されたことがあるだろうか。

 当時の戦闘機は真空管を搭載し,起動するには数分間掛かった。その昔故郷に里帰りした時,ラジオのスイッチを入れると放送が聞こえるまで数分かかった。真空管ラジオと同じ原理である。

 1950年代の朝鮮戦争時,韓国側はアメリカ製のF-86セイバーのジェット戦闘機,北朝鮮側の対抗機は旧ソ連製のMig(ミグ)15戦闘機だった。この時の戦闘機は真空管を搭載している。朝鮮戦争の勃発から休戦までの約2年間で米機損失78機に対し撃墜数約800機と撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)10以上の戦果を上げた。

 後にF-86戦闘機は毒蛇「サイドワインダー」(ヨコバイガラガラヘビ)という名の,赤外線探知短距離空対空ミサイルが搭載された。この空対空ミサイルが初めて実戦で使用され,撃墜を記録したのは,金門島砲撃戦の1958年9月24日,中華民国(台湾)の金門馬祖周辺を主とする台湾海峡においてであった。台湾空軍と人民解放軍空軍との交戦があり,台湾空軍はAIM-9サイドワインダー空対空ミサイル搭載のF-86F戦闘機で人民解放軍のMiG-17F(またはJ-5)の11機(一説に12機)を撃墜した。

 その後,F-104スターファイター戦闘機が開発された。アメリカ初のマッハ2クラスの超音速ジェット戦闘機である。初期のF-104は真空管を使い,後期ではAFCS(オート・フライト・コントロール・システム=自動飛行制御システム)の半導体の機載コンピューターを搭載している。

 F-104戦闘機の翼が短いため,バランスを取ることが難しく,失速し墜落する可能性がある。パイロットがこのAFCSを「ON」にした場合,機載コンピューターが自動操作しバランスをとる。これは現在の自動車の自動運転と同じ設計思想である。仮にパイロットが無理な操作を行い,失速の可能性があった場合,AFCSはパイロットに危険の警報信号を出し,パイロットが無視し続けると,このシステムは飛行軌道を自動的に修正する機能を持っている。後の戦闘機にはAFCSシステムを全て搭載するようになった。

 また,F-104戦闘機のコンピューターシステムに不具合が生じた場合,地上の保守担当士官がこの機載コンピューターを着後戦闘機から取り外し,代替コンピューターを差し込むと,戦闘機は即次の任務に離陸することができる。この間わずか5分間で,戦闘性と機動性が大幅に向上した。

 戦闘機から取り外したコンピューターをAFCS保守チーム部署の大型専用コンピューターにセットし,Run(回転)させチックする。機載コンピューターの中の何番目の基板カードに不具合が発生したのかが判り,予備の新しいカードと入れ替えると作業が完了する。この時間もわずか20分未満である。この機載コンピューターの構造は,タワー型やデスクトップ型パソコンに似ている仕組みを持っている。

 昔の真空管を搭載した戦闘機の場合,地上の保守担当士官は計器を使って,どの回線やどの真空管がショートしたのか,計測して新品と取り換える。これには数時間かかり,この期間帯に戦闘機は次の任務に就くことができない。半導体搭載戦闘機は,真空管搭載戦闘機と比べると機動性が極めて高くなった。

 これらの戦闘事例は,なぜ半導体が必要だったかを物語っている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2222.html)

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