世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2197
世界経済評論IMPACT No.2197

中国共産党の超限戦と共産主義経済社会の宿命

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.06.21

中国共産党

 孫文は,イギリスの植民地になっていた中国を,自分の手で独立国家にしようと動き出していたが,国際金融資本家グループが毛沢東を起用し,資金を与えて中国共産党を作らせた。毛沢東は農村から革命運動をスタートした。農業地主や,反抗する5000万人のものを殺害して,1949年共産党の独裁国家「中華人民共和国」を造った。国を乗っ取ってつくった全体主義の一党独裁政治には,それを維持するためには言論統制により人民を弾圧支配する必要がある。天安門事件などを通じて反抗者を抑えつけ,虐殺しなければ全体主義の中国共産主義社会は維持できない。

 1972年2月アメリカのニクソンとキッシンジャーが電撃的に中国を訪問し,毛沢東,周恩来と会って国交を樹立した。ニクソンは,中国の経済発展のために資本と技術を提供すると言い,その代わりアメリカに中国の市場を開放することを約束させた。

 1978年,鄧小平が「改革開放政策」で「ウインブルドン広場」を作り,そこにアメリカ,日本,ドイツがそれぞれ資本と技術を持ってきて生産する「世界の工場」を造った。この「世界の工場」でアメリカ,ドイツ,日本などが中国の安い労働者を使ってモノを造り,輸出する仕組みを作った。これにより中国は輸出を伸ばし,膨大なドル外貨を稼ぐことができ,資本と技術をただで手にした。鄧小平は共産党支配という「鎧」を隠して,「韜光養晦」という「袈裟」を着て経済の発展を進めた。アメリカも日本も,中国が経済的に発展していけば,共産党支配を捨て,自由で民主的な国になるであろうと期待して,中国にどんどん資本を入れてきた。これが「中国とのエンゲージメント」であった。

 しかしこれが誤りであったとアメリカのトランプは判断した。そのためにトランプは中国共産党を倒そうと,米中戦争を起こしている。

 しかし日本はまだせっせと中国に貢いでいる。中国は実質的に日本とドイツを植民地的に使ってきている。中国は,ウイグル人や中国人農奴を奴隷として使っており,チベット人の54万人を中国の工場で強制労働させられている。

中国共産党の超限戦(サイレント・インベージョン)でやられたオーストラリア

 中国共産党の習近平は,「2049年には世界を支配する」と宣言している。

 日本も中国の属国にするという。中国共産党は,現在の段階ではアメリカの核兵器を含めた軍事力ではかなわないので,軍事による戦争はやらない。中国は武器による戦争ではなく「サイレント・インベージョン」(超限戦)で他国を侵略している。兵器以外のあらゆる手段を使い外国を侵略する。これは「情報戦争」でもある。

 中国の「サイレント・インベーション」の犠牲者の一つはオーストラリアである。中国の「オーストラリアの属国化戦略」である。中国は,2010年ぐらいから,多くの工作員をオーストラリアに送り,オースラリア企業や不動産を乗っ取り,土地を買収し,資源,食料,人材を乗っ取り,大学,研究所,シンクタンクに研究員,研修者,留学生として中国人を潜入させて技術を盗用し,サイバー攻撃を仕掛けて情報を抜き取り,政府要人をも中国側に引き入れてオーストラリアを中国の属国にしようとして来た。

 中国人のオーストラリアの農地の所有はこの数年で10倍になっているという。2015年ダーウイン港の99年の租借権が中国企業に売却され,ウィリアムタウンの空軍基地に近いニューキャッスル港を中国企業が買い,オーストラリアを「一帯一路」計画になかに入れようとしている。こうしたことを中国はオーストラリア人に気付かれないように巧妙にやってきた。中国の「オーストラリア属国化戦略」の一つの狙いは米豪同盟の解体である。このような中国の侵略は『目に見えぬ侵略:中国のオーストラリア支配計画』(クライブ・ハミルトン著)に詳しく報告されている。

 スコット・モリソン首相は,財務長官時代の2016年8月に中国の国営企業がニューサウスウェールズ州の配電会社オースグリッド社を買収しようとしたときその土壇場でこれを阻止した。電力は産業活動,社会活動の血液であり,血管である。これを中国に支配されればオーストラリアの経済,政治はおかしくなる。こうして中国がオーストリアを乗っ取ろうとしていることに気付き,モリソン首相は毅然として中国を拒否し,「外国干渉防止法」等の法案を作り中国の工作員を追い出している。

全体主義・共産主義の本質

 中国共産党は,全体主義で人民を抑圧し,言論統制をして支配している。中国共産党は,資本の自由化を認めないし,人権を認めない。外国企業は資本と技術を持ってきて中国で生産活動できるが,その利益は中国の外に持ち出せない。外国人は中国の土地は買えない。共産党は人民も企業も監視し,共産党が指示する。もっと悪いことは,中国共産党は外国の技術を強制的に盗ることである。千人計画で外国技術者を取り込み,「中国国家情報法」で中国人,中国企業にスパイをさせて外国の技術を盗み取る。これは中国共産党のDNAで,共産党である限り変わらない。これでは資本主義国は中国共産党の中国とは付き合えない。

 中国は国際機関の乗っ取りもしている。15ある国連の専門機関の「国際電気通信連合」,「国際民間航空機関」,「国際連合工業開発機関」,「国際連合食料農業機関」などの4つポストをすでに中国が握っているし,WHO,WTOにも侵入している。これにより中国の思うように世界戦略を進める。「サイレント・インベージョン」は「情報戦争」でもある。

共産主義経済社会の宿命~計画経済制度の欠陥

 社会主義的計画経済は,国からのノルマによる生産活動をするが,これはインフラ投資や「生活必需品」の段階は何とかなるが,人の好みによる「便益品」の生産・消費は,政府の計画経済で旨く行かない。「中所得の罠」は国の経済が「生活必需品」のステージから「便益品」のステージ移るときに起こる。中所得の罠を通り抜けるには,国民大衆が所得を上げなければならない。しかし大衆の所得が上がっても,大衆の消費する「便益品」は政府の計画経済ではうまくいかない。政府は国民大衆の好みを推測し計画することはできないからである。この理由でソ連の経済は停滞し,1991年にソ連は崩壊した。中国も今その問題を抱えており,国民大衆の所得は低い。中国の李克強が暴露したように,中国には6億人の貧民がいるようだが,それ以外に貧苦にあえぐ地方の農奴的な農民が多くいる。中国はいくつかの活気ある民営企業が存在するが,今共産党がそれにコントロールの手を入れ始めている。もし中国の「情報バリアー」が破られて,中国の膨大な貧困層が資本主義諸国の経済社会の姿を知ると,彼らが暴動を起こす。習近平はこれを恐れ,情報バリアーを築き,貧困層に外の情報を与えないようにして,言論統制をしている。今アメリカのトランプは「中国の情報バリアー」を壊そうとしている。

中国内部からの反抗

 中国共産主義社会の殆どの国営企業はノルマ制のため生産性は上がらない,赤字になり,ゾンビ企業になっている。最近中国自動車の大手華晨汽車集団は債務不履行で破産手続きに入った。中国半導体の大手紫光集団も債務不履行に陥っている。そうした企業が沢山出てくる。しかし中国の民営企業が成長してくると,言論統制をする共産党を批判しだす。民営企業は中国の銀行から融資が受けられないので,従業員から金を提供してもらい事業をしているものが多く,その業績は伸びている。共産党はそうした企業を国営化し,コントロールしようとしている。そうなるとその企業は衰退してしまうであろう。アリババのジャック・マーはこうした共産党を批判したために共産党から迫害を受けている。アーントレ,テンセントもそうである。しかし中国共産党内部から習近平批判,共産党批判も出始めている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2197.html)

関連記事

三輪晴治

最新のコラム