世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
土地利用面から問題の多い太陽光発電施設
(事業創造大学院大学 特任教授・高崎経済大学 名誉教授)
2021.04.12
地球温暖化・気候変動が国際的に政治・経済・社会問題を深刻化させ,脱炭素社会実現が求められている。解決策として石炭・石油発電を減少するため,水力・風力・地熱・太陽光など再生可能エネルギー活用が推奨され,とりわけ太陽光発電設備の増加が顕著である。しかし,太陽光発電設備の増加に伴い土地利用などに様々な問題が顕在化してきた。あるべき脱炭素社会実現のために問題の一端を述べてみたい。
現在の太陽光発電設備は設置形態から概ね次の4タイプに分類できる。第一は自家発電を目的に住宅・工場・倉庫などの屋根等に設置し,余剰電力を売電するタイプである。第二のタイプは発電設備専用用地1ha以上の中・大規模発電所である。第三のタイプは発電設備専用用地1ha以下で,その多くは300~1,500㎡の小規模発電所となる。そして第4のタイプが農地の上部に発電設備を設置する営農型太陽光発電所で,このタイプの規模は大小様々である。
筆者は首都圏外縁部の地方小都市で15年前から景観まちづくりに係わり,太陽光パネルやその反射光が生活環境や景観まちづくりの阻害要因になることを指摘してきた。その結果,2018年に「自然環境,景観等と太陽光発電設備設置事業との調和に関する条例」が施行され,第一のタイプを除く敷地面積300㎡以上の設備を審査する太陽光発電設備設置審議会長も務めている。
条例施行で安易な設置はなくなり,2ヶ月ごとの審議には毎回10件前後が上程され,その大半は条例上問題なく認可されている。しかし,地形・地質面から太陽光発電開発による大災害誘発が想定され,事業者との調整で是正された案件も複数ある。また,認可条件の完工後検査・確認も重要で,条例の制定意義は大きい。太陽光発電設備設置規則のない自治体は多く,住宅街の一角にフェンスのない出入り自由な太陽光発電設備をも目にする。感電事故など危機管理上からも条例制定の必要性は高い。
しかし,条例だけでは解決できない問題が生じてくる。人口減少する中山間地には日照条件の良い耕作放棄地や管理困難な林地も多く,1~2千円/㎡の安値でも売却したい地主が多い。そうした土地を購入した域外業者が1,000㎡前後の太陽光発電施設を次々に申請してくる。これらは個別に見る限り規模も小さく,周辺との調整も少なく,排水も敷地内自然浸透できるため認可・設置される。しかし,小規模とはいえ数年後にそれらが連続立地してくると,スプロール型(虫喰い状)大規模発電地域の様相となる。広大な面積が林地・農地から太陽光パネルに変わることで豪雨の際,自然浸透処理できずに下流集落の災害危険性が増加し,行政が巨額の費用を掛けて水路整備をせざるを得なくなる。
かかる問題は申請ごとに農地法,森林法,都市計画法,建築基準法,文化財保護法など個別法で審査される。最初から大規模施設が計画されたなら排水路や貯水池の設置義務が生じるが,小規模発電施設ごとの審査では結果として大規模になっても排水路や貯水池の設置はない。こうした状況を放置すれば,高度経済成長期における大都市近郊の無秩序都市化・環境悪化に酷似した状態が山間僻地に発生することになる。しかも,域外業者設置発電設備には他の域外業者への転売が増加しつつある。所有権移転管理等を厳格にしない限り,転売が重なると所有者不明施設となり,近い将来,老朽化で不法放棄されかねない。その結果,業者が利益を求めて環境を悪化させた地域を,行政が税金を費やして改善せざるを得なくなる。
首都圏外縁部では,数10haの巨大太陽光発電施設が再エネ固定価格買い取り制度(FIT)を活用してゴルフ場跡地,石採り場・鉱山跡地などに設置されつつある。また,大規模優良農業地域内に5~60haの巨大太陽光発電設備が,農地を潰していくつも設置された。さらに環境良好な大規模別荘地に隣接して巨大太陽光発電設備が設置され,永年の住民の環境保全努力が踏みにじられている。その結果,防災問題や環境悪化,周辺農業などに悪影響が懸念されつつある。
こうした事態を防ぐためには,国土利用計画法を低成長・人口減少時代に適したものへ抜本的に改正し,総合的視点から土地利用規制をする必要がある。スプロール型(虫喰い状)大規模発電地域形成を阻止するには総量規制が求められ,あるべき形に太陽光発電設備を誘導する法律・条例の制定が緊要と考える。大半の市町村が太陽光発電設備設置事業に関する条例すら制定していない現状では難しい状況にあるが,再エネは,固定価格買い取り制度(FIT)で家庭負担が2021年には標準家庭でも1世帯あたり1万円を超すことになる。その負担は年々増加すると見込まれる。それだけに,将来に禍根を残すような土地利用や問題ある発電設備は早急に規制し,未来が開ける脱炭素社会を創らねばならない。
- 筆 者 :戸所 隆
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
関連記事
戸所 隆
-
[No.3595 2024.10.21 ]
-
[No.3501 2024.07.29 ]
-
[No.3386 2024.04.22 ]
最新のコラム
-
New! [No.3602 2024.10.28 ]
-
New! [No.3601 2024.10.28 ]
-
New! [No.3600 2024.10.28 ]
-
New! [No.3599 2024.10.28 ]
-
New! [No.3598 2024.10.28 ]