世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2117
世界経済評論IMPACT No.2117

温室効果ガス・ゼロにどう挑戦すべきか

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.04.12

 「温室効果ガス・実質ゼロ」は,これまでのような「公害対策」という考えでこれに取り組むと失敗する。菅首相は,11月2日の国会で「温暖化対策を成長戦略としてとらえることが必要だ」と述べたが,これまでの政府の「成長戦略」の中でこれを進めると成果は上がらないし,「新しい社会を創る」ことにはならない。

 新しい「温室効果ガス・実質ゼロ社会」を創る上での前提がある。

 ⑴世界は1985年頃からグローバル化に走り,国の産業は海外に出ていき,多国籍企業,無国籍企業は,自分の国の環境を犠牲にして,価格切りさげ競争を繰り広げた。そのために地球環境を破壊し,国民経済は疲弊し,イノベーションは停滞し,国民大衆は貧困化してきた。日本の産業競争力も衰え,世界ランキングも落してしまった。アメリカのトランプは,これに対して「アンチ・グローバル化」に舵を切り,アメリカ経済を立て直そうとしているし,ヨーロッパ諸国もその方向に向かい始めた。しかし日本はそのことに気付かず,まだグローバル化に走っている。

 日本は,イノベーションにより,日本の「国民経済」を豊かにし,産業・経済を発展させるなかで「温室効果ガス・実質ゼロ」を実現しなければならない。温室効果ガスを実質ゼロにしたが,国民が貧困化してしまうということになってはならない。

 ⑵温室効果ガス・実質ゼロを考えるとき,まず「日本のエネルギー自立」の決意をする必要がある。太平洋戦争に日本が突入したのは,日本がアメリカの石油に依存していて,フーバー米大統領の内部告発書のように,アメリカが経済制裁で日本への石油の輸出を辞めたので,やむなく日本はアジアの石油を確保しようとして戦争を始めた。しかし今日でも日本は中東の石油に依存している。2017年で日本のエネルギー自給率は9.6%である。オーストラリア306%,カナダ173.9%,アメリカ92.6%,イギリス68%,フランス52.8%,ドイツ36.9%などと比べものにならない。

 エネルギー自給率が低いのは,「安全保障の問題」以外も,電力コストが高くなり,高いエネルギーを使う産業は競争力がなくなる。そのためにもエネルギー自給率を90%以上にしなければならない。

 ⑶温室効果ガス・実質ゼロのための排出削減を,これまでの「公害対策」の観点で,現状の産業構造を前提として排出量の削減ノルマを企業,産業,国民に割り当てるような動きでは「温室効果ガス・実質ゼロ社会」は実現できない。イノベーションにより,全く新しい仕組みを創らなければならない。シュンペーターが「駅馬車を何台連ねても鉄道産業にならないし,自動車産業にはならない」と言ったように,全く新しいエネルギーと新しい技術を開発し,新しい温室効果ガス・実質ゼロ社会構造・システムを創らなければならない。

 ⑷自給する新しいエネルギーの発電コストを現在の水力発電7円/kWh以下にする。日本はこれまで高い電気コストで産業の競争力のハンディキャップが大きかった。IT社会ではコンピューティングの電気使用量が大きくなり,そのために電気コストを低くしなければならない。日本産業を競争力あるものにする。

 ⑸新しいエネルギーシステムの開発を契機にして「新しい技術」,「新しい産業」を開発するイノベーションを巻き起こす。「環境産業」という新しい分野で「ムーンショット・プロジェクト」にして,その先端機器,設備を,国際分業の形で,世界に供給する体制を創る。そして新しい雇用を創造し,これにより1995年以来続いてきた日本のデフレから脱却する。そのために基礎科学技術研究に大きな資金と人材を投入する。

 ⑹これからのエネルギーには,「エネルギー生産技術」,「蓄電技術」,「エネルギー・マネジメント技術」,「環境モニターシステム」などが重要なものとなる。特に「新しいエネルギー生産技術」「新しい電池技術」を開発して,日本がその産業で世界をリードし,その機器設備を世界に供給できるような強力なものにする。

 ⑺アメリカの経済力・国力の衰退の中で,日本国の安全保障力をどう強化するかを考えなければならない。アメリカ大統領がバイデンになるとアメリカは日本により厳しくなり,中国の習近平は外に対する侵略活動を更に進めてくるであろう。その意味で,日本の防衛力,エネルギー安全保障,食料安全保障,自前の情報通信インフラ設備をもった通信安全保障の増強を図る必要がある。これを「温室効果ガス・実質ゼロ」を構築する中で増強する。こうした活動の中で日本の「自立心」を高める。

 ⑻現在あるエネルギー技術,生産技術では「温室効果ガス・実質ゼロ」は達成できない。新しいいろいろの技術を開発しなければならない。この挑戦にたいするハードルは,1962年アメリカのケネディ大統領が未知なる月に挑戦しようと演説したときよりも困難なものである。

 そして,狙っている「環境産業」,「健康産業」,「環境市場」は,これまでの鉄鋼産業,自動車産業,半導体産業などとはレベルが違い,比べ物にならないくらい複雑なものになる。「温室効果ガス・実質ゼロ」には,これまでの産業である化石燃料産業,化石燃料発電産業,ガソリン自動車産業,ジーゼル機関産業など終息させ,新しいエネルギー産業,新しい発電産業,新しい自動車産業,新しい電池産業,電化・情報の新しいネットワークに転換するのであるが,その過程の中で,大量失業問題,労働者の移動問題,既得権者の反抗などが起こる。これらを解決しながら,こうした産業社会の大転換をどのように成し遂げるかの綿密な「実行戦略計画」を策定し,それを確実に実行するための「エンフォースメント体制」を確立しなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2117.html)

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