世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世界秩序の変化の可能性:英米,そして日本のあり方
(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科 教授)
2021.04.05
筆者は,「言語は英語,基軸通貨は米ドル,法律は英米法,モノづくり基準は英国が基礎を作り,英米で世界に定着させたISO,会計基準は英米会計基準,そして時と空間のスタンダードはグリニッジ天文台のある英国が世界標準である」と見ていることから,「現行の世界秩序は,英米の秩序から成り立っている」と考えている。
そして,こうした秩序は,「大航海時代以降今日まで連綿として築かれてきたものであり,大航海時代以降の既得権益層は,この秩序の下,効果的に世界運営を図り,利益を確保してきている」とも考えている。
さて,こうした大航海時代以降の既得権益層が構築してきた秩序を崩そうとしていた米国のトランプ大統領の再選がならず,既得権益層に支えられた,バイデン氏が米国大統領に就任した今年一月以降,バイデン政権は,米国国家運営の舵取りを大きく変更し,「(上述したような)大航海時代以降の秩序を守るべく,同盟国,就中,大航海時代以降の既得権益層のオリジンともなる欧州の同盟国重視の姿勢を軸として,国際協調路線の回帰を表明する」という姿勢を明確に示した。
そして,バイデン政権は,「地球環境問題と人権問題」に一つの軸足を強く置きつつ,更に中国本土の影響力拡大を意識して,「民主政治と専制政治」の対決姿勢を示し,再び,「英米の世界標準を確立する」為に動き始めていると見られる。
筆者の認識しているところでは,中国本土の習近平国家主席は文民として,大航海時代以降の既得権益層との一定の関係を維持しつつ,国際協調を図る可能性もあると見ているが,最近,中国本土国内では,新型コロナウイルス感染拡大防止の為に,各現場で社会秩序を人民に守らせてきた,「人民解放軍と公安」の影響力が再び強まってきており,この軍と公安が文民・習近平氏に圧力を加えて,「内政と財政・貿易赤字に悩む米国」,「ナワリヌイ氏問題とナゴルノ・カラバフ事件以降,ロシアの支援国であるアルメニアを事実上見捨てたのではないかと見る親露国家から失望感が出ているロシア」,「市場開放政策の中で,農業の国際開放を進めた結果,農業分野を中心とした国民から厳しい目を向けられているモディ首相率いるインド」など,中国本土にとってはライバルとなる国々の相対的な国力の低下を睨みつつ,中国本土の軍と公安勢力の発言力が中国本土国内では強まっており,例えば,中国本土の国防予算は6.8%増で可決,海警法も現場での武器使用権限を強める形で可決,そして,香港の政治に対する介入も強める政策が次々と承認される状況となった。
更に,軍と公安は,ライバル,米露印の混乱に乗じるかのように,文民・習近平氏に,「RCEPの本格的組成」を歌い上げさせ,想定国の中のインドを除く15カ国,即ち,日中韓とオーストラリア,ニュージーランド,そしてアセアン10カ国を引きずり込む形でRCEPがスタートすることに成功した。
更に,この勢いを受けて,米国が対中経済包囲網の為に作ろうとしていたと言われる,しかし,その米国は今,国内企業の不満を受けて離脱している,「TPP」への参加まで表明し,既存のTPP加盟国11カ国に個別撃破で加盟条件の変更を迫り,TPPに加盟していない韓国も取り込みながら,TPPに加盟してくる意欲を強く示している。
中国本土は,「RCEP,可能となれば,これにTPPも加えて,RCEPand/orTPPを,デジタル人民元決済システムを定着させる場として利用してくる」と言うことをもくろみ始めている。
即ち,中国本土は,「決済通貨を米ドルから人民元に変えていくだけでなく,決済方法を国際金融によらず,人民元を基軸とした電子マネー決済に切り替えていくことで,現行の基軸通貨・米ドルによる金融決済システムという牙城を,RCEPとTPPを舞台にして,一気に崩していく姿勢を示すかもしれない」という状況にまで引き上げてきているのである。
そして,このような野心的な動きを示す,軍や公安が影響力を強めた中国本土を意識しつつ,英国のエリザベス女王陛下は,「再び,中国本土を眠らせなさい」との意思を示し,これを受けて,英国政府・ジョンソン首相は,なかなか回帰できない米国の状況をみ,「英国がTPPに加入する」と表明し,また「アジア太平洋,インド洋地域の安定の為に,軍艦も派遣する」とまでコミットしてきているのである。
こうした国際情勢を考えるとき,我が国・日本としては,下手に世界の覇権争いには介入せずに,「世界に必要なモノやサービスを量と価格を安定させて供給できる国」を意識,「可能な限り,いざとなれば,鎖国も出来る国家体制に体質転換を図る」ことも念頭に置いて,第二次世界大戦後,これまでの米国一国との連携による安全保障体制ではなく,「英米を両翼に持ちながら,平和を追求する国家・日本」という国家像を世界にアピールして,世界にとって,必要な国として生き抜いていく姿勢を示していくことこそが,日本の望むべき姿であると筆者は考えている。
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