世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「コロナ・バブル」を支える? 「ニューノーマル化経済」
(桜美林大学大学院 教授)
2021.03.22
バブルへの懸念と警鐘の指摘
2020年秋以降,NYダウが最高値を更新し,日本でも日経平均株価が約30年ぶりに3万円の大台を回復する等の世界的株高現象は,現時点(2021年3月)まで,調整的な急・反落に直面ながらも持続している。またグローバルに高騰しているのは株式のみならず「原油」等資源価格//商品相場,「貴金属」からビットコインなど暗号通貨(仮想通貨)にまで及んでいる。
金融市場は過去には巨大なバブル(そしてバースト)経験を,これまで幾度も繰り返しており,今回についても,市場を覆う「楽観的スタンス」に懸念を抱き,警鐘を鳴らす議論も多い。
a.コロナ・パンデミックのダメージは広汎かつ深刻。先進諸国での実体経済へのダメージは非常に大きく(とくに米国),また経済社会の構造的問題(医療産業の不備や,国民の受益者格差・健康格差等),さらに危機管理体制の脆弱性を炙りだした。実体経済の回復期待といってもGDP,企業収益水準がコロナ前を大幅に上回る勢いというわけではなく,市場は明らかに「過大評価」「バブル」現象を呈している。
b.これまでにも繰り返して生じた市場の高騰・急騰現象については,結果的に,需要の先食い的な現象であった,とされることが多い。
c.先進各国の経済再生・回復の「人質」にとられた形で,金融・財政政策の機動性が縛られ,バブルを放置するはずという「市場のコンセンサス」が,実はかつてのバブル事例でも存在した。市場参加者の同床異夢が,(これまでとは異なるファクターが,顕在化することによって)「何か」を引き金として醒めた場合,相場は崩落し易い。
といった指摘がなされている。
「市場」活性化に資する「2大潮流」の拡大と,ニュー・ノーマル化
さてバブルをめぐる議論はさておき,今回の資産(株式やコモディティ等)の全面的高騰には,「アフター・コロナ」を展望し,新たに到来しつつあるグローバル・エコノミーにおける経済の諸構成要素・単位の「価値評価」「価格水準」に対する,「リ・ポジショニング」といった側面もあるのではないかと思われる。
さらには現在の「市場」の動向を強くリードするまでに拡張したグローバルなパラダイム的なベクトル(仮説A&B)が,二大潮流と化し,大きな影響を及ぼしていることに注目したい。
即ち,A=「DX(デジタル・トランスフォーメーション,産業のデジタル化による高次元への移行)を主導する「デジタル・キャピタリズム」,そしてまたB=「SDGs(或いはESG投資)の形で世界的に推進される,「クリーン(&グリーン)・キャピタリズム」の2大潮流である。
Aについては,コロナ禍の直前まで,グローバル・エコノミーは,いよいよDX(デジタル・トランスフォーメーション)時代を迎えるということで,様々なイノベーションやAIの活用により,経済の質的飛躍が期待されていた。そしてコロナ禍は,このDXを事実上加速しつつある。
日本ではコロナ禍に伴う医療・教育面における「オンライン化」をはじめ,企業のテレワーク移行,行政(手続き面)での電子化の遅れが一挙に顕在化した。そして対人的ホスピタリティ・サービス産業が感染リスクに曝され,無人化・省力化投資が必要となることから,今後もDXは加速されよう。またあらゆる産業分野でのイノベーションがDXにより促進され,成長が高まるグローバル・エコノミーにおいて,米・中・欧・日をはじめとする企業間の競争激化は,市場の活性化をさらに促すことが見込まれる。こうしたDXに関連した企業・技術・資材・マテリアルが注目され,資金を集めつつある。
Bは,今後のあるべき世界経済社会はクリーンでグリーンが望ましく,こうした大義にかなう企業/社会に向けて,投資家は積極的に支援(投資)すべきである,というムーブメントである(リーズナブル・リスクテイクによって,サステナブル・リターンを追求していく方向性)。
これからも深刻な脅威が見込まれ危機予防・危機管理が不可欠な,感染症を含めたGCBR(Global Catastrophic Biological Risk)への対策はさておいて,アフター・コロナに向けて,地球温暖化(気候変動)対策の中でも急速に盛り上がりつつある「脱炭素(カーボン・ニュートラル)社会」実現への政策支援は,国連(SDGs創設)や,同分野で主導権を目論むEU,そしてバイデン新政権下の米国,ICT・テクノロジー超大国を指向する中国,等いずれも異を唱えるものではない。巨大な規模と裾野を持つ自動車産業をとってみても,一挙に各国で政策に背中を押されEV化の流れが造られつつある。こうした環境に乗ったイノベーション・新技術開発を行ったり,SDGsの推進・改善に積極的な企業に対する中長期的な投資(ESG)推奨が,すでに欧米機関投資家(年金基金など)や各種ファンドを中心に増大している。
このようなグローバルに官・民のコンセンサスを得た形のSDGs・ESG「投資」がプレゼンスを拡大し,新たな「グローバル・スタンダード」を形成し,「ニューノーマル」化していくことが,市場の層の厚みや裾野を増し,バブルへの下支えとなる,という「先読み」も,あながち否定はできないであろう。
関連記事
平田 潤
-
New! [No.3627 2024.11.18 ]
-
[No.3573 2024.09.23 ]
-
[No.3262 2024.01.15 ]
最新のコラム
-
New! [No.3627 2024.11.18 ]
-
New! [No.3626 2024.11.18 ]
-
New! [No.3625 2024.11.18 ]
-
New! [No.3624 2024.11.18 ]
-
New! [No.3623 2024.11.18 ]