世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
アフターコロナを展望したマネーバブルか,「ニューウェーブ」か?
(桜美林大学大学院 教授)
2021.03.15
2020年晩秋から「ビッグゲーム」化した金融市場
2020年春に発生した「新型コロナウイルス感染症」のパンデミック化に伴い,世界の株式市場は,相場の大幅な下落(コロナ・ショック)に見舞われた。その後も感染は第二波/第三波と続き,秋以降,欧州・米国では,再び感染者・死者が増加基調に入った。この間有力なワクチンの開発・製造が進んで,まず先進諸国等から供給が順次開始される一方で,英国等から変異型のウィルスが断続的に広がり,欧州各地での大規模な都市ロックダウンや,医療現場/最前線の苦闘は現在(2021年3月)も持続している。
しかし金融市場においては,2020年秋,とくに米国でバイデン新大統領が確定した11月以降,コロナ禍では世界最大の感染者/死者が発生している米国が,幅広い業種(製造業)で生産が回復しつつある,等の材料を背景に,NYダウが最高値を更新する等,世界的株高現象が始まった。
2021年に入ると日本でも日経平均株価が約30年ぶりに3万円の大台を回復するに至った。
こうした各国市場における,強力な「ブル(強気)」「リスク・オン」ベクトルが生じた背景には
- ①米・欧・日など主要先進国の「超」金融緩和政策が長期化するという予測で,市場が一致,
- ②世界的なウィルスとの闘い(コロナ・パンデミック・WAR)が,各国のワクチン接種により,収束に向かい,2021年以降,経済の本格的再建・回復,さらには拡大が期待される,
というグローバル・コンセンサスが存在する,といってよい。
その後2月下旬には,市場が米国長期金利(10年国債利回り)急上昇を警戒し,米・欧・日等中央銀行当局の金融緩和持続の強い姿勢を試す形での「急・反」落や「調整」が見られたが,今のところ株式等の相場水準が,一段切りあがった状況は崩れていない,といってよいであろう。
そしてグローバルに高騰しているのは株式のみならず「原油」等資源価格//商品相場,「貴金属」からビットコインなど暗号通貨(仮想通貨)にまで及んでいる。また日本を見ても,コロナ禍によるライフスタイル変化(テレワーク増大,巣籠消費拡大)の中,個人投資家が本格的に市場に戻りつつある(投資信託残高大幅増に反映)等,投資家層の裾野拡大が,ブームを支えている。
アフター・コロナを展望した,新たな「ビッグウェーブ」か?
こうした市場の「ブーム」「大相場」が一過性でなく,中期的なトレンド(2021~22年は持続)を形成するビッグウエーブ,であるとする市場関係者の見方は,とくに以下を重視している。
- ①先進国から順次開始されたワクチン接種により,コロナ・パンデミックの終息が見え始めた(現に欧米諸国の新規感染者数は確実に減少し,またワクチンの効果も上がってきている)。今後も変異ウイルスによる紆余曲折が考えられるが,ワクチンも進化が著しく,供給面でも有力メーカー・国による供給体制が整いつつあり,世界は,コロナとの闘いで,明るい出口(アフター・コロナ)が展望できる。
- ②世界経済がマイナス成長に沈んだ2020年から,先進各国の積極的経済対策もあって,鉱工業生産の回復・企業収益の拡大が鮮明化しており,コロナ禍の大きな打撃を受けたセクター・個人消費も徐々に持ち直しつつあるなど,グローバル経済の復調は力強い。
- ③米国・欧州(ユーロ圏)・日本など先進国の金融政策は,当面は「超緩和スタンス」を堅持すると見込まれる。世界各国は,実体経済や雇用を確実に回復させるため,マネーを潤沢に供給する緩和的金融政策を維持・強化する流れが続く(FRBのテーパリングも後寄せされる)として,投資環境は「リスク・オン」が持続すると見込まれ,金融市場ではすでにグローバルに「リフレ・トレード」が生じている。
- ④コロナ・パンデミックにより,大きく落ち込んだ消費産業(とくに観光・運輸・飲食・各種サービスといった分野)の支援・再生のために各国とも,③と両輪で,当面大型の財政出動政策が実施される。とくに米国バイデン政権による総額1.9兆ドルにのぼる財政出動(及び追加される大型の経済パッケージ)は,米国景気の下支え・起爆剤効果が大きいのみならず,世界経済に与える効果は大きい。
コロナ・マネー・バブル?
一方,さすがにこの各種相場の急騰状況について,バブル現象を指摘する向きも多い。とくに通貨(暗号通貨)として「投資金融商品」の一角を占めるものの価値の変動が激しく,「投機」の対象となっているビットコインには資金が流入して,相場が過熱している。2018年まで低迷していた相場が,2020年半ばに1万ドル水準,2020年12月に2万ドルラインを突破した後,1月に4万ドル水準を突破し,乱高下している。ビットコインに限らず,各種相場の水準については,果たして適正か否か(バブルの発生では?)は懸念されるところであろう。
一般に金融現象としてのバブルとは,財やサービスの価格が,あるべき水準から乖離して高くなった現象を示す。「あるべき水準」とは,「本来的な価値に基づく価格=ファンダメンタルズ(当該資産の生み出すリターン,キャッシュフロー等)に基づいて算定・想定される価格の水準」とされる。従ってバブルとは,実物資産(不動産等)や金融資産(株式など),さらには無形資産(ブランド等)の価格が,本来の水準をはるかに超え長期的に持続できないレベルに達した場合とされるが,他方「バブルと判定されるのは,はじけて(burst)から」という難しさがつきまとう。「バブルが形成される要因・条件」として,これまでの事例研究からは,以下が指摘される。
- ・実際の需要(実需)の存在と,その高まり・持続
- ・多くの市場参加者・関係者の予想・期待の一致
- ・前2要因が拡大することを助ける,(経済・金融における)「客観的条件」の存在(=政策のベクトル,とくに金融緩和政策で低金利持続・通貨供給量増により,過剰流動性が高まる=)
- ・バブル価格や需要への(理論的)根拠づけ(バブル価格への追認・正当化)
- ・ブーム化と拡張(メディアによる増幅,ネット,SNS,などによる拡散,マスへの浸透)
- ・投機資金の積極的流入(短期的視点からの投資が増大,レバレッジ資金の導入)
この条件は,現在の市場について全て該当するといってよいであろう。
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