世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
法規制撤廃如何に掛かるイノベーションの成否
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2021.03.01
商品かビジネスが詐欺的なものかどうかは,その時点での法規に違反しているかどうかで決まる。大きなイノベーションはこれまでにない新しいものを創造するものであるので,そのイノベーションが大きいものであればあるほど,その時の法規制と矛盾することがある。
経済社会は,技術・経済関係という「土台」の上にそれに適合した「上部構造」としての社会行政,制度,規則,システムより成りたつ。しかし技術・経済関係という「土台」は常に変化し,進化している。「土台」が変化したら,「上部構造」の制度,規則,システムをそれに適合したものに変更しなければならない。社会制度,システム,法規制を改変して社会が進化することになる。デジタル技術,AI技術という「土台」は新しい社会の規制,制度,システムに改変することが必要になる。もし「上部構造」が改変されなければ「新しいイノベーション」は詐欺的行為になる。
今アメリカとヨーロッパではGAFA(グーグル,アマゾン,フェースブック,アップル)のビジネスモデルと租税に対して社会的なコンフリクトがあるとして,国家と争われている。
グーグルの情報検索システムは,毎日世界のウエッブ上にあるデータ・情報をクローラで入手し,検索サイトにアップデートする。グーグルが情報検索事業をスタートする前は,ウエッブサイトのデータを入手するにはその所有者から使用の承諾がなければならなかった。グーグルは政府に働きかけてウエッブサイトのデータは所有者の許可がなくても使用できるように法律を変えてもらった。グーグルが検索ビジネスをスタートする2年前に,日本の経済産業省は「情報大航海プロジェクト」で「情報検索システム」を開発しようとした。しかし法規制を変えかなったので,日本は情報検索システムを事業化できなかった。
ソニーは,ウオークマンをベースにした音楽のダウンロード商品のアイデアを持っていた。しかし音楽コンテンツには知的所有権があり,いろいろの音楽を無断でダウンロードして聞くことはできなかった。そのためにソニーはこのプロジェクトを諦めた。アップルは,iPodで第三者の音楽コンテンツを自由にダウンロードして,シャッフルして音楽を楽しむ新し市場を創り上げようとした。スティーブ・ジョブズは第三者の音楽コンテンツを自由にダンロードできるように,音楽コンテンツ業界とアメリカ政府に交渉して法規制を変えさせた。
18世紀にフランスの軍事技術者ニコラ・ジョゼフ・キューニョーは世界で初めての蒸気三輪自動車を開発した。しかし当時のフランスでは,「移動体」を動かすには,人間が旗を持って「移動体」(自動車)を先導しなければならないという法規制があった。そのためにフランスでは自動車は実用化されなかった。そのような法規制のないアメリカで自動車が開発され,大量生産され,自動車社会が生まれた。つまり,科学技術が進化してくると,いろいろなイノベーションが起こるが,そのイノベーションが実るには,科学技術の進化に合わせて国の法規制を変えていかなければならない。ドローンでも同じことが起こっている。
アメリカには「セーフハーバー」というコンセプトがある。これまでにない新しい技術や仕組みで商品や事業を開発する時,「セーフハーバーに基づきこの商品を提供します」ということを顧客に提示して,商品を販売する。もしその商品や事業が社会に適合せず,欠陥商品になった場合,そこで事業を中止する。そうするとそれまで販売した商品についての責任をとる必要はない。これが「セーフハーバー法規」である。アメリカは国として,国民が情熱をもって新しいイノベーションに挑戦することを鼓舞しているのである。
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