世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ禍,医療崩壊解除の処方箋:有事の思考法
(九州産業大学 名誉教授)
2021.02.01
コロナ禍,今は人間と新型コロナウイルスの戦いの戦時であり,有事でもある。日本は医療ひっ迫,医療崩壊から医療壊滅へ次第に移行しています。医療壊滅を回避するため,筆者は次の処方箋を考えた。
2020年,中国が武漢で新型コロナウイルスの猛威を振る時に,採用した方策を参考したものである。この時,中国は武漢,北京などに敷地3万平方メートルの雷神山医院,火神山医院という1000病床規模の大型「方艙医院」(臨時病院)を設けたことである。要するに,突貫工事でプレハブ病院である。
このモデルは最近の河北省の石家荘などに新型コロナウイルスが猛威を振り,同じく大型臨時医院を急遽,建設し始めた。これと同じように,アメリカのニューヨークも感染者が多く発生し,海軍医療船やこの大型臨時病院を建設し,対処している。
まず,筆者の処方箋は菅義偉政権が新型コロナ禍医療担当大臣(仮称)を任命することを提言したい。この大任は厚生労働大臣が兼任しても良い。なぜならば,日本の国立病院は厚生労働省が管轄,国立大学病院は文部科学省が管轄になっている。新型コロナ禍医療担当大臣が統一的に管理し,コロナ禍を退治する必要がある。
この担当大臣は日本医師会や東京医師会会長など各地域の医師会長が,共同協議のもとでその地の大型臨時病院を立ち上げる。大型臨時病院は中症患者と重症患者を別棟にする。とりあえず,初期には中症患者専門にし,国立病院などが重症患者を診て,自宅・ホテル滞在で入院できない患者を収容する分業体制を構築する。
今,大きな問題は入院待機者が入院できないこと。同時に,国立病院で重症から中症に回復した患者を収容する。重症から中症に回復した患者の収容ができないため,重症床に重症患者の収容ができない問題点を解決することができる。
東京の場合,累積で数千床の臨時病院を数カ所設ける。大阪周辺の場合,1千床ぐらい,東京周辺の3県は500床ぐらい,愛知,福岡などは300~500床ぐらいの臨時病院を設ける。これはあくまでも一つの目安であるが,当然,ここで述べていない県や感染者の拡大で,臨機応変して調整したら良いと思う。最初に緊急事態宣言の都府県を優先に大型臨時病院を建設し,その後に,感染者が急速に増加した県も必要に応じて建設する必要があるだろう。
福岡県の場合,香椎浜人工島には広い土地があり,ここに大型臨時病院の設置地として考えられる。そのほかに,プレハブ病院を建てるには1カ月ぐらいの時間が必要のため,博多の森の体育館,国際会議場などに病床として使用できる。病床の周辺を簡単に囲む工事は数週間かかるが,プレハブ病院よりも早くできる。東京の場合,大きな公園や空き地を確保するか,または東京オリンピックの選手村や会場を開催の7月の1カ月前まで流用ができる。消防法の特例として認める必要があるかも。これで「国家チーム」で統括してコロナ禍に正面から戦うという,入院の「ハコもの」が解決できる。
「人」とは医師,看護師と事務処理者の問題である。陽性収容病床数が少ない民間病院や公立病院は,収容せずに,いままで病床担当する医師,看護師をこの臨時病院に出向する。収容病床数が少なく,より多くの医師や看護師の投入では効率が悪いからである。床数が少ない民間病院や公立病院は陽性患者の収容がなく,他の患者としても安心が得られる。規模の経済効果が基本的な考えである。日本の場合,規模の小さい病院や個人のクリニックが多い。平時は地域の医療を負うことは十分であるが,有事では対応しにくい場合がある。小さな病院・クリニックの場合,医師に週1日の臨時病院でバイトのかたちで派遣を要請することも考えられる。
東日本震災や阪神大震災時,他の県の医者・看護師が駆け込んで援助した。感染患者が少ない県からも医者・看護師の出向の形での援助を求める。一部は“鶴の恩返し”の考えがある。国家チームでコロナ禍に対応するのが基本の考えである。
国家医師免許を獲得した医学部卒の“新米”医師に,2年間の研修生の義務があるため,この期間に全員を臨時病院に派遣する義務を課する。“新米”医師であるが,猫の手を借りたいため,十分な戦力にもなれる。ここで磨いた貴重な経験は,“新米”医師は将来にこのような禍に遭遇した場合,“中核”として働いてくれるだろう。
大学病院の勤務医はコロナ禍でバイトがないと聞いている。勤務医のバイトとは,1週間のうち,1日間の研修日を他の病院で診断することである。これらの勤務医も週1日を臨時病院でバイトができ,医師不足の補填ができる。もちろん,呼吸循環医や救命救急医が最も理想であるが,他の科の医師でも救命救急医などの資格を持つ医師も採用することができるだろう。隠れた貴重な戦力である。
出向を要請された医師・看護師には,家に幼い子供や年配の両親・祖父母がいて感染させるリスクがあるため,躊躇する場合がある。この場合,勤務日には臨時病院の近くなどのホテルの宿泊を認め,祭日に自宅に帰省させる。
事務処理者は既存の病院からの出向,航空会社の経理,人事管理者の出向(コロナ禍で便数の減少による人手余り)などで,医薬品の出入,人員の出勤・休みなどを管理する。
医療設備はレンタルや既存病院の陽性入院患者を収容しないため,機材の流用なども考えられる。
7月以降に東京オリンピック・パラリンピックが開催され,9月に首相選挙,国会議員選挙が迎えられる。コロナ禍に,菅義偉政権の有事の思考脳で対応し,先手,先手で待ったなしの素早い対応を期待したい。
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