世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1999
世界経済評論IMPACT No.1999

トランプ魂は永遠に不滅だ!

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2021.01.11

 トランプ氏は本当に大統領選挙に負けたのだろうか? 私が最も信頼できると考えた調査結果を中心に統計学的に分析し今後の米国政治に関しても俯瞰してみようと思う。

 まず宗教保守派はトランプ62%対バイデン36%。

 但しトランプ大統領は4年前より約1.6%を失い,バイデンはヒラリーより2.6%多く獲得。バイデンとトランプが僅差の州では,それが違いだったのかもしれない。

 トランプ氏は宗教保守派の支持も受けつつLGBTの人権問題にも取り組んだことが理由か? しかし逆の結果としてトランプに投票するLGBTの人々の割合は約2倍——2016年から2020年まで,14%から28%。

 白人の有権者はトランプに59%投票。ヒスパニックはバイデンに64%投票したが,トランプは32%。黒人の有権者はバイデンに81%投票したが,18%はトランプに投票。民主党の大統領候補は,ヒスパニックの7割以上,黒人の9割以上を取れなければ再選できないと言われていた。これでバイデンが勝ったというのは,やはり不自然である。

 しかし地方に住む労働者階級はトランプ氏に今回11ポイントの勝利マージンを与えたが,それは2016年より2ポイント弱い。

 頼みの労働者階級の票が減ったこともトランプ氏には痛かったかも知れない。しかしトランプ氏は貧しい黒人等への生活再建援助を優先したりした。これもLGBT人権問題で福音派票を逃したのと同じ構図が,白人労働者階級にはあったのかも知れない。

 なお都市化が最も進んでいない郡(全体の20%)の有権者は2016年の32ポイントから35ポイントの差でトランプ氏に投票。最も都市化された郡の有権者(上位20%)はバイデン氏に29ポイントで4年前の25ポイントから上昇。

 “アメリカの分断”は着実に進んでいるのである。

 そのためかトランプの有権者は4年前より今の方が,85%が良いと言い,バイデンの有権者は60%悪化したと述べた。

 そこでテキサスと全国で,トランプ大統領は1960年以来,共和党の非白人有権者の中で最高の支持を得た。この再編が持続する場合,共和党を働くアメリカ人の党に作り直し民主党は沿岸エリートと同一視されるようになる。

 このような変化を共和党本体や今まで共和党を支持して来た財界は喜ばず彼らが積極的に応援しなかったため,トランプ氏の選挙資金はバイデンより3億ドルも少なかった。これも「敗因」だろうが,バイデンがトランプよりも多かった3億ドルの内2億ドルがウォール街,1億ドルがシリコン・バレーからのものである。まさに「民主党は沿岸エリート」の党になりつつある。

 そのためトランプが何百万もの新しい有権者を見つけなかったならば,共和党が上院を保持できなかった。

 また下院での民主党の過半数は,第二次世界大戦以来,最も小さくなり,バイデン政権が出来ても立法を操作する余地が制限され,民主党内でも中道政治家と極左議員の間の緊張が高まる可能性がある。

 更に共和党は今回の選挙で史上最多に近い62の州議会で多数となり,これで2022年以降の新しい下院選挙区作成で同党に有利な線引きを行い,その後10年くらい下院等での優位を続けられる可能性が高い。

 2020年の国勢調査でトランプ政権は今までと異なり不法移民をカウントすることを排除しようとした。その影響が出れば民主党が強い7つの州が1つずつ下院の議席を減らされ,テキサス3議席,フロリダ2議席,他の共和党系州に2議席配分される。何れもトランプ氏がヒスパニック票を取ったので激戦州から共和党州になった州ばかりである。

 これは大統領選挙における代議員数の変化も同様なのである!

 さて民主党の予備選挙の有権者に2024年の選好を尋ねたところ,ミシェル・オバマ25%,ハリス18%,ブティジェッジとクオモ8%等。

 バイデンやハリスが,いかに民主党員にも期待されていないかが分かる。

 それに対して2024年の共和党のリーダーは,トランプ大統領,マイク・ペンスが30%ずつ,トランプJr20%,ヘイリー8%等。

 つまりトランプ氏には2024年に復活の可能性があるのであって,そのためトランプ大統領は,彼が辞任した後でも影響力を保持することを可能にすることができる新しい政治行動委員会を設立。選挙日から数週間で2億750万ドル以上を集めた。敗北して退任する大統領にとっては前例がない。

 そして共和党員の70%以上がバイデンの勝利は詐欺だと信じていた。

 これなら落選しても2024年の復活は可能だ。彼は地方を中心に人種等に関係なく働く普通の米国人の心を掴んだ。その結果これから10年は共和党は下院議員や大統領の選挙で有利になった。大統領選挙に出なくともトランプ氏の影響力は拡大し続けるだろう。

 もし不正投票が本当になかったがトランプ氏が負けたというなら,LGBTの人権を擁護したら宗教保守派に若干離反され,黒人の生活再建等に力を入れたら白人労働者の支持が弱くなったためだろう。

 今後の課題は「働く者は報われる」というのは憲法以前の米国の建国精神—ピューリタンの精神であり,それを大事に思う者は人種や宗教に関わらず誰もが仲間であるという考え方と,そのような社会を作るには多少の「大きな政府」的政策が必要であるという考え方を,どれだけ広められるかだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1999.html)

関連記事

吉川圭一

最新のコラム