世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
齟齬・矛盾を露呈する共産主義:全体主義の計画経済社会の問題
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.11.02
全体主義的な共産主義国は,「計画経済」であるから国有化された生産手段で国が生産・消費の計画を作り,商品を生産し,消費される社会である。スミスが言ったように,商品には「生活必需品」と「便益品」とがある。「生活必需品」は人が生きるために必要な物資である食料,衣料,住宅などと社会インフラの設備投資がある。「便益品」は人の好みによる消費財である。近年は「生活必需品」の食料,衣料も人の好みが入ってきて「便益品」化している。ここでのポイントは「人の好みによる商品は国家が計画して生産することは困難である」ということである。つまり「便益品」は「市場」を通じてでしか適切な生産・消費ができない。
1917年ソ連がスタートしてから初期の段階,つまり1940年ぐらいまでは「生活必需品」の生産の段階であったが,そのころのソ連の経済成長は資本主義国のものよりもずっと大きかった。しかも過剰生産や大不況はなかった。そのころ資本主義国では経済の停滞,不況が続き,1929年にはアメリカの大恐慌が起こり,これが世界に波及した。そのためにそのころは世界ではソ連の社会主義社会が高く評価され,多くの人がソ連に憧れ,社会主義国になる国も出てきた。ところが1950年以降はソ連の経済成長は衰えてきた。1950年頃から「便益品」の時代にはいったが,ソ連での「便益品」の製品生産は殆ど「重量」で管理していたため,長靴もシャンデリアもますます重いものになり,重くて歩けない長靴になったり,重くなり過ぎた大きなシャンデリアが天井から落ちたというニュースが当時出たことがある。ソ連では消費財産業は育たなかった。1991年ソ連が崩壊したとき残っていた産業は軍需産業,鉱山産業,石油・天然ガス産業ぐらいであった。ロシア国民は貧困化していた。ソ連が崩壊したのはそのためである。
今日の資本主義先進国のGDPの6割から7割は「消費財の生産消費」である。国民が豊かになるには良い消費財が大きくなる必要がある。
中国では鄧小平が改革開放で「世界の工場」で経済を伸ばしていったが,中国自身での産業活動はインフラ投資であった。道路建設,鉄道建設,住宅建設が進んだ。中国の産業はインフラ投資のためのセメント産業,鉄鋼産業,建築産業,盗んだ日本の技術による車両製造産業であった。そして国有土地のリース料がGDPに入っていた。アメリカ,日本,ドイツなどが「世界の工場」で中国の労働者を使い商品を生産し,外国に輸出したものが加わり,中国のGDPの成長率は驚異的なものだった。
しかし5年ぐらい前から中国のインフラ投資は減少してきており,そのために中国GDPの成長率もスローダウンしてきている。中国人も中国の経済統計数字は信頼できないと言っているが,最近の中国の鉄鋼生産,セメント生産は過剰生産になっているが,それを入れても,交通量,輸入・輸出量を基に推測すると,ここ数年の中国の本当のGDPの成長率は0%に近いと言われている。中国政府は2019年の成長率を6%と言っていたが,そんなに高くはなさそうである。そのためか今中国は他国を侵略し,収奪して利益を上げようとしている。
中国の基幹産業は国有であるが,今習近平は,共産党の管理を強めるために民間企業をもどんどん国有化している。従業員50人以上の企業に共産党員を派遣し,共産党支部を置いている。中国企業は実質的に国営になってきている。補助金などにより,戦略商品の価格は,資本主義では考えられないほど安いものにして,世界に輸出している。ファーウエーの通信機器などがそうである。またコストを安くするためにウイグル人を奴隷労働者として使い,ものを生産している。
しかしまだ中国は消費財を生産する技術力がなく自分で世界に売れる消費財製品を作る力がない。だから中国は日本の技術が欲しいのである。しかし計画経済,国有企業では「便益品」の生産活動は難しい。
2018年の中国の一人当たりGDPは9,580ドルで,アメリカの6分の1,日本の4分の1である。中国は「中所得の罠」に嵌っている。習近平は2020年までに国民の貧困層を無くすと宣言していたが,最近李克強は中国の6億人以上のものは月1000元(1万5千円)の所得で,まだ多く貧困層がいることを暴露した。今中国では貧困層による暴動があちこちで起こっており,そのために中国は監視システムで人民をますます弾圧している。
アメリカの中国への経済制裁,長江の大水害,イナゴの災害などで,中国経済はかなり衰退してきている。最近習近平は,トランプの「中国ディカップリング政策」に対して,周辺のアジアの国を入れて,「国内循環」と称して中国の中に立て籠もり,食べ物の節約令を出して,持久戦をしようとしているようである。だがどんなことをしても中国共産党はそんなに長くは続かないであろう。
中国人は共産党を信じていない。共産党員自身もそのようである。中国の富裕層や,共産党党員も自分の財産はアメリカかスイスに移しており,子供はアメリカに住まわせている。中国人は,アメリカを「美国」と言い,アメリカは安心できる国と思っている。中国人は「反米は仕事。生活はアメリカ」としている。
全体主義の共産主義国では,ソ連でも中国でも,国民は国を信用しない。家族親類縁者の助け合いのなかで生きている。
筆者は大学時代,向坂逸郎先生と高橋正雄先生のもとで4年間マルクス経済学を勉強した。しかし昭和34年の4年生の終わりごろには,社会主義社会,共産主義社会は人間社会にとって良い体制ではないと考えるようになった。私はいずれソ連は潰れるであろうと言った。その理由は二つある。一つはレーニンのロシア革命の真相を知ったこと。民衆,労働者による革命ではなかった。二つ目は,生産手段の国有化による「計画経済」の社会では,国民大衆の好みの「便益品」である消費財の生産と消費は旨く行かないと思ったからである。
日本が1960年頃から国民所得倍増計画により高度成長をし,賃金が上がり,国民が豊かになると,社会主義運動,労働組合運動も下火になっていった。社会党は分裂し,共産党も変質してきた。しかし1990年ころから日本経済がグローバル化してゆき,国内経済が衰退し,所得格差が拡大し,国民が貧困化してくると,社会主義思想,共産主義思想がまた蔓延してきている。中国共産党はその隙をついて日本をサイレント・インベーションで侵略している。コロナ禍を克服し,日本経済を早急に立て直し,国民を豊かにしなければならない。
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