世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ノンファーム型送電線接続:政策転換の可能性
(国際大学大学院国際経営学研究科 教授)
2020.10.26
今年の7月3日,梶山弘志経済産業大臣は記者会見を行い,「2030年までに非効率石炭火力をフェードアウト(休廃止)させる」という方針を発表した。この方針について,本Webサイトに寄せた「『非効率石炭火力発電所のフェードアウト』は政策転換か」(2020年9月21日発信,No.1884)のなかで筆者は,今回の「非効率石炭火力フェードアウト」方針は,けっして第一報が伝えた「政策転換」とは言えず,その本質は「高効率石炭火力を使い続ける」意思表示にあったと論じた。
それでは,「非効率石炭火力フェードアウト」方針には,政策転換の要素はまったく無いのであろうか。答えは,「否」である。
石炭火力自体に関する限り政策転換とは言えないが,梶山大臣が合わせて提示した,「再生エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討」は,今後,重要な政策転換につながる可能性がある。これは,送電線利用について,原子力や大型火力の「既得権」を優先させてきた従来の「先着優先ルール」を見直して,再生エネ発電の受入れ容量を拡大しようとするものである。その際,千葉・鹿島・東北北部で先行的に行われている「ノンファーム型接続」を,全国的に横展開すると言う。
ノンファーム型接続とは,系統混雑時の制御などの一定の条件をつけて,再生エネ電源等からの送電線への新規接続を幅広く認める方式だ。2018年から導入されてきた「日本型コネクト&マネージ」と呼ばれる新しい送電線利用ルールを,さらに深掘りしようとするものである。
「日本型コネクト&マネージ」そのものについては,18年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画も言及しており,新しい政策提起とは言えない。ただし,これまでは,再生エネ電源からの送電線接続の拡大は,限定的な規模にとどまると理解されてきた。しかし,今回のノンファーム型接続の全国展開は,そのような理解に風穴をあける意味合いをもつ。
これまで,いくら「日本型コネクト&マネージ」を掲げても,本格的に先着優先ルールを手直しすることは,困難であった。しかし,今回は,「系統混雑時に再生エネ電源が,先にファームで接続している非効率石炭火力に劣後するのはおかしい」という論理で,先着優先ルールに大きな風穴があくことになった。このように,非効率石炭火力のフェードアウトと送電線利用ルールの見直しとは,密接に関連しているのである。
千葉でノンファーム型接続の先進事例を開拓したのは,東電グループの送配電会社の東京電力パワーグリッド(東電PG)である。東電PGにとっては,唯一無二に近い資産である送電線の稼働率を上げない限り,収益を増やすことはできない。したがって,今年4月の発送電分離を受けて経営の自立性を高めた東電PGは,いつ再稼働するのか見通しの立たない柏崎刈羽原子力発電所用に空き容量を確保しておく方針はとらず,積極的に再生エネ電源等の送電線へのノンファーム型接続を受け入れた。この方式が今,全国に展開されようとしているのであり,それは,明確な政策転換だと評価することができる。
従来の経産省であれば,石炭火力の縮小の代替手段として,原子力の増強を声高に主張したはずである。ところが,今回,梶山経産相は,石炭火力縮小の受け皿として再生エネ発電拡大を打ち出したのであり,この変化には刮目すべきである。
今年の7月1日に約10ヵ月ぶりに開催された総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の会合でも,次期エネルギー基本計画の策定へ向けた経産省当局の報告のなかで,原子力への言及が著しく減退した点が目立った。この会合を傍聴した日本経済新聞の滝順一論説委員は,「原子力を忘れていないか,石炭火力削減方針の陰で」と題する記事(『日本経済新聞』電子版,2020年7月14日発信)を書き,そのなかで,次のように述べている。
「傍聴して印象的だったのは,原子力に関する資源エネルギー庁の事務局と委員の間の『熱量』の差だ。事務局説明では原子力について『2030年度で電源構成の20~22%を占める』とした現行基本計画の目標などをさらりと触れるにとどまったが,委員からは再稼働やリプレース(建て替え)を求める声が次々に出た。それはあたかも,『原子力を忘れるな』と言っているかのようだった」。
このように,長年にわたって原子力を守るための審議を重ねてきたと言っても過言ではない,あの基本政策分科会においてさえ,変化の兆しが見え始めているのである。
今回の「非効率石炭火力フェードアウト」方針は,石炭火力そのものに関しては,政策転換と呼べるものではない。しかし,再生エネの利用拡大に関しては,大きな政策転換につながる可能性がある。期待感を持って,政策転換のゆくえに注目していきたい。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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