世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1907
世界経済評論IMPACT No.1907

人類はどうして学ばないのだろうか:なぜ繰り返す,国家破産の歴史

紀国正典

(高知大学 名誉教授)

2020.10.05

 アメリカのフォーク・シンガーであるピート・シーガーがつくった「花はどこへいった“where have all the flowers gone”」という歌がある。1960年代にベトナム戦争が激化していたとき,反戦歌として,キングストン・トリオ,ピーター・ポール&マリー(PPM),ブラザーズ・フォーが歌って一大ブームとなった。日本でも「花どこ」の略称で親しまれ,反戦集会などでよく歌われた。邦訳してみると,次のような歌詞となる。

 「花はどこへいってしまったの。みんな娘たちが摘んだしまったよ→娘たちはどこへいってしまったの。みんな夫のもとへいってしまったよ→夫たちはどこへいってしまったの。みんな兵士になってしまったよ→兵士たちはどこへいってしまったの。みんな共同墓地へいってしまったよ→共同墓地はどこへいってしまったの。みんな花に埋もれてしまったよ→花はどこへいってしまったの。みんな娘たちが摘んだしまったよ→ → → 」

 歌詞は永遠のくり返しである。矢印で示した節目ごとに,「人間はいつになったら学ぶのだろうか“when will they ever learn”」という歌詞が入る。人類が何度も何度も戦争をくり返し,いっこうにそこから学んでいないことを警告した歌なのである。国家破産も,何度もくり返されてきた。やはり人類は学んでこなかったのである。

 ここで筆者が「破産」といったのは,「個人や組織が持続的な管理・運営に失敗し,思考と行動の根本的な変革を強制されること」である。したがって「国家破産」とは,このような破産が,「国家的な規模と範囲で影響をおよぼす破産」のことである。国家破産には,財政破産,貨幣破産,金融破産,経済破産,災害破産,戦争破産,気候変動破産がある。そしてこれらの破産が,「国境をこえた規模と範囲で重大な影響をおよぼす」のが,「国際破産」である。戦争破産,気候変動破産は元から国際破産であるが,疫病をふくむ災害破産は,コロナウイルスの世界的感染にみられるように,他の国家破産と同じく,グローバル化(地球規模での人・物・金の大移動)の進展で,国際破産の仲間入りをした。

 人類がこれまで何度も国家破産・国際破産をくり返してきたことを,実証的に明らかにした画期的な研究が,ラインハート&ロゴフ著『今回はちがう:金融愚行の800年』Princeton University Press, 2009(邦訳:村井章子訳『国家は破綻する―金融危機の800年』日経BP社,2011年)である。これは,当時,IMF(国際通貨基金)のエコノミストであった彼らが,1300年から2008年までの800年間にわたり,66ヵ国もの国について調査した研究成果である。

 彼らの調査がいかに徹底していたかを示すエピソードがある。それは,日本が対外政府債務をデフォルト(返済不能宣言)していた,との著書の指摘に憤慨した日本の財務省の高官が,その撤回を要求してきたので,彼らが1942年のタイムズ誌の記事を送ったところ,謝罪の手紙がきたというのである。この高官は事前に,調べはしなかったのだろうか。

 なぜ国家破産・国際破産がくり返されるのか,この謎に対して,実証研究を終えた彼らが下した解答が,著書の表題ともなっている「今回はちがう‘This time is different’」シンドローム(症状)である。1929年に,ジョン・ローのバブル時代とは今回はちがうといいながら大恐慌を発生させてしまったことや,2008年に,リスクは完全にコントロールされており,今回はちがうと豪語しながら,リーマンショックを引き起こしてしまったことを,彼らは詳しい証拠をあげて立証している。そして次のように警告する。「未来の政策担当者や投資家が本書の提出するデータと分析の重みを受け止め,安易に〈今回はちがう〉と口にするのを控えるよう,願ってやまない。今回がちがうことはまずないのだ。」

 しかし人間には寿命による更新がある。新しい世代が,自分たちならもっとうまくやれると挑戦してはまた失敗する。今回はちがう→今回もそうだった→今回はちがう→今回もそうだった→ の永遠のくり返しになるかもしれない。しかしもう,くり返しは許されない。人類が焦熱地球によって絶滅する「人類破産」を,破産の最終結末として,気候変動破産がプレゼントするからである。思考と行動を一大変革しなければならない時である。

 *詳しくは,紀国正典「国家破産・金融破産および国際破産の歴史」高知大学経済学会『高知論叢』第117号,2019年10月を参照のこと。この論文は,金融の公共性研究所サイトの「最近の活動」ページからダウンロードできる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1907.html)

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