世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
アフターコロナ時代の新しい大学教育の質保証
2020.09.21
我々は,旧稿(8月31日付ご参照)で,新型コロナウイルスの影響による授業のオンライン化を背景とした,アフターコロナ時代の新しい大学教育の国際化のパターンについて説明を行った。本稿ではそれに伴う質保証の在り方について説明を行ってみたい。
学生の国際間移動(留学)と大学の国際間移動(海外分校設立等)といった大学教育の国際化の現時点での最高段階は,オンラインで授業を全世界に同時配信を行うオンライン生産(教育)の段階である。このオンライン生産の段階では,教育(具体的には授業科目の教授と受講)という人的財の生産活動のみが世界同時に発現し,オンラインによる授業科目が世界を駆け巡ることになる。授業そのものが地球上を瞬時に駆け巡り,どこにでも届き,学生はその授業科目をキャッチすればよい。
オンライン化によって授業科目のグローバルな流動性が増すことになり,今後,国際的な次元での複数大学の授業科目(単位)による学位プログラムは多様化し,国際的な単位互換,ジョイントディグリーやダブルディグリーの件数は増加していくが予想される(これらのことは国内の次元においても同様であろう)。これは,大学教育のグローバルネットワーク化のことであり,大学教育を教育(具体的には授業科目の教授と受講)プロセスによって社会に価値ある能力を備えた人的財すなわち教育財を生み出すバリューチェーンと捉えれば,そのことはバリューチェーンの構成要素である授業科目がグローバルに分散していくことであり,教育財のグローバル・バリューチェーンが構築されていくことを意味している。
ここで,質保証について説明してみよう。質保証とは,教育を行っている当事者である大学が自ら授与している教育の内容や成果について,学生やその保護者,納税者,地域住民といったステークホルダー(利害関係者)に対して説明する行為といえる。そして,質保証は内部質保証と外部質保証がセットとなっている。内部質保証とは,大学が自らの責任で点検・評価を行い改善につなげていき,質を保証する活動であり,外部質保証とは,その内部質保証を基にした,認証評価機関による認証評価(アクレディテーション)のことである。それでは,オンライン生産の段階での質保証とは,いったいどういったものになるであろうか。
内部質保証という側面では,現在でも学生による授業評価アンケートや満足度調査は実施されているが,当該大学が,学生の視点からの評価をこれまで以上に取り入れていかざるをえなくなってくるであろう。オンライン生産の段階の大学教育では,学生は,渡り鳥のように複数の大学の授業科目を履修し単位修得していく機会が増していく。渡り鳥学生は魅力的な授業がなければ飛来しないが,こういった学生は,大学を比較(複眼)の視点から評価することが可能であり,その評価は,特に教育の内容や成果についての点検や改善への効果が非常に大きいと考えられる。
そして,外部質保証を担う認証評価機関は,これまで,①国内の認証評価機関による評価,②海外の認証評価機関との相互認証評価活動,そして③欧州,アジア,北米等の地域別の認証評価団体への参加というように国際化を進展させてきている。日本の多くの大学の外部質保証は,①の国内の認証評価機関による評価に留まっているという現状がある。
授業を全世界に同時配信を行うオンライン生産の段階に達し,大学教育の次元がさらにグローバルになることで,世界統一の認証評価基準が必要となり,今後,④各国の認証評価機関が加盟する形をとる世界統一の認証評価機構が登場してくる可能性は高いと考えられる。今後,多くの日本の大学は,外部質保証の国際化への対応が課題となってくるであろう。
上記のようなシナリオは理想論すぎるかもしれない。しかし,国際化と質保証は現代の大学教育の両輪として考えるべきものであり,特に,新型コロナウイルスの影響によって,今後,大学教育の国際化の次元が,これまで説明したようにオンライン生産へと大きく変化していくことが予見される中では,質保証について上記のようなシナリオを辿っていくことが十分予想できるであろう。
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