世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1877
世界経済評論IMPACT No.1877

米中武力衝突危機の中の日本の経済課題

清川佑二

((一財)国際貿易投資研究所 参与)

2020.09.14

 米中の武力衝突の危機の中で,諸国が頼りにした安倍総理が辞任した。

 最近の世界の報道は,米中の頻繁な軍事演習と“熱戦”の危機を伝えている。

 中国系の報道では「南シナ海の東沙諸島,西沙諸島,中沙諸島に囲まれた三角水域が最も危険」,「台湾海峡でリスクが最大」などと伝えている。

 米国では中国の不当な対外拡張をいま「力」で止めなければならないとの考えが高まっているのに対し,中国は時間を稼げば有利になるとして国内では長期持久策を実施している。いずれの側にも,後に引けない危機感が漂う。約50日後の米大統領選目的の対決だとする報道もあるが,戦意高まった軍隊の管理は容易ではないから,新冷戦に止まり得るかどうか予断できない。米国外交は中国包囲網に力を入れ,中国は米欧分断に努めている。

 この危機中で,トランプ大統領と親しく,習主席とも対話し,平和主義で各国首脳の信望が集まっていた安倍総理の突然の辞任は,世界の痛手であり各国から「安倍ロス」の声が上がっている。

 米国は南シナ海で「正義」に裏付けられた大義名分を持っている。

 中国は南シナ海の九段線内は中国領と主張しているが,国連の仲裁裁判所は判決で明確に否定したので,原状回復は法的に当然のことである。民主主義国では裁判の判決は絶対であり,関係諸国も判決を支持する旨の文書を国連に提出した。米国が判決に従って原状回復を図ることは「正義」と映り,米国民と世界世論の支持を受けやすい。習主席も2015年にホワイトハウスでオバマ大統領と記者団に対して,南沙諸島の工事は軍備を意図していないと発言したことは広く報道された。

 日本は対中輸出依存度が24%と著しく高く,極めて脆弱である。

 米国と中国との対決に際して日本は安全保障面で米国と緊密化しているが,中国との経済関係では特に2つの課題に直面している。

 第1は最も深刻な点であるが,日本の対中(香港を含む)輸出依存度は約24%と著しく高いため,中国に対して極めて脆弱な立場にある。ドイツは対中依存度が高いと言われるが7%程度に過ぎず,日本と比べようもない。中国はこれを認識しており,環球時報は「日本は米国の同盟国ではあるが,中国はその最大の貿易パートナーであり,米日関係は対中問題において一枚岩である必然性を有していない。日本をワシントンのますます極端になる対中政策と距離を保たせ,ワシントンの中国攻撃との日本の連携を減らすことは,中国側にとって完全に可能なことだ。この面で実際の効果をあげれば,中国にとってその意義は中日の具体的な争議の中での些細な得失の意義より明らかに大きいのだ。(8月29日)」と書いた。その背景には,「国内の超大規模市場の優位性を発揮」せよとの習主席の指示がある。

 中国の意向に沿っても沿わなくても困難が待っている。対中依存度37%の豪州は「中国の靴の裏にくっついたガム」と中国紙に書かれたうえに対中輸出規制等を受けているが,毅然として自由民主の価値観を貫いている。中国の要求に沿ったアップルは,世界中で非難されて方針変更に追い込まれた。中国にかかわる企業は,いま経営の根本を見つめる事態を迎えている。

 第2は,日本と米国との軍事同盟の責務と制約への取り組みである。

 日本企業も,米国の対中規制の強化に応じた行動が不可欠である。中国は米国の禁輸技術などは日本や韓国から入手するつもりとの報道もあり,日本企業は半導体などハイテクや量子情報・量子センシング等のエマージング技術について米規制の動向に細心の注意が必要である。また米企業が手を引いた分野での日本企業の行動が,抜け駆けとならないよう慎重さが求められる。

 米中に中立的な地域経済連携を実現する。

 米中対決の環境下の東アジアでは,いずれにも偏らない自由貿易地域の形成が重要である。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)は最終合意間近といわれるが,米中対決激化に伴ってその意義が高まったと思われる。ASEAN中心主義のもとに経済連携を進める目的であり,さらにASEANの輸出依存度は中国14%,米国11%とバランスのとれていることも,偏りのない独自性を保つのに役立つ。なおRCEPの多くの分野の多角的な交渉を通じて日本と中国,日本と韓国の間で二国間の経済関係が初めて条約化されことも,北東アジアの安定と発展に貢献すると考えられる。

 既に発足したTPP11はWTOルールよりも先進的で,その拡大が待たれている。米国においても安全保障関係者の殆どがTPP復帰を提唱していることから,何らかの機会に復帰が実現することを願いたい。価値観を共有する国々の連携のもとに,高度な自由経済圏が拡大することが期待される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1877.html)

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