世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1826
世界経済評論IMPACT No.1826

SWIFTの変容と「第四世界」の浮上

本山美彦

(国際経済労働研究所 所長・京都大学 名誉教授)

2020.07.27

経済制裁の武器=SWIFT

 SWIFTとは,“Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication”の頭文字を採った名前である。それは,各国の銀行の国際間の資金を送受信するシステムを維持する機構のことで,日本では「国際銀行通信協会」と訳され,「スイフト」と発音している。

 表題に「第四世界」という耳慣れない用語を掲げたが,これは,かつて「第三世界」と呼ばれていた新興諸国の運動体をもじった,私の手前味噌的な造語である。第三世界は,当時の米ソという二大覇権国に支配されていた世界秩序に風穴をあけることを目指していた(結果的にはNICsの登場で瓦解してしまったが)。

 ポストコロナ禍の国際社会では,新しいデジタル社会の構築に邁進する新興国が輩出してくるであろう。そうした新興諸国は,自分たちの新しい試みを圧殺しようとするSWIFTへの反感を強めるであろうと予想される。私は,SWIFTに対抗するために同盟し,連携を強める諸国を「第四世界」という造語で表現したい。

 自国の方針に敵対する国に経済制裁を課するために,米国はしばしばSWIFTのシステムを使ってきた。米国の経済制裁対象にされてしまった国が,外国の企業と貿易を行おうとしても,米国は,その国の銀行をSWIFTのネットワークから外してしまう。このネットワークを外された銀行は,貿易の決済代金の送受ができなくなる。米国の経済制裁を受けていない国も,自国の銀行がそうした取引に荷担してしまえば,同じく,SWIFTのネットワークから外されてしまうのではないかとの恐怖で,米国に協力してしまう。SWIFTこそが,経済制裁の要なのである。

 SWIFTは,国際送金や決済を実行する世界の銀行に,正確な情報と安全なネットワークを提供するという目標を掲げている非営利法人で,本部をベルギーのラ・ユルプ(La Hulp)に置いている。1万を超える世界中の金融機関が,SWIFTの標準化された通信フォーマットを利用して日々大量の決済業務等を行っている(野村證券・証券用語解説集)。

困難なSWIFTからの離脱

 経済制裁を受ける米国にとっての敵対国からすれば,SWIFTは魔手以外の何ものでもない。

 2014年3月17日,ロシアは,国際的にウクライナ領土と定められたクリミア半島(クリミア自治共和国)を軍事介入によってロシア領に併合した。

 例によって,米国とEUはロシアへの経済制裁に踏み切った。ロシアはこれに対抗して,SWIFTから分離する「SPFS」(Financial Communications Transfer System,金融通信システム)の開発に乗り出している(『イズベスチャ』,Izvestia,2018年5月4日付)。そこではブロックチェーン技術が基本になっていると報道された。イズベスチャ紙の報道があった直前の2018年4月下旬,東京で行われた「ISO」(International Organization for Standardization,国際標準化機構)のカンファレンスで,「FSB」(ロシア連邦保安庁)の関係者が,「今後のブロックチェーン開発は我々が主導することになるであろう」と発言している。

 2019年10月4日,ロシア財務省は,トルコとの間でSPFS利用の取り決めが締結されたと発表した。

 ロシア主導の「ユーラシア経済連合」(EAEU,前身はユーラシア経済共同体,2015年1月1日に創設,加盟国はロシア,カザフスタン,ベラルーシ,アルメニア,キルギス)がSPFSの中核となっている。しかし,現在のところ,SPFSはまだ機能していないと判断できる。

 それに対して,中国の「CIPS」(シップス,Cross-Border Interbank Payment System,国際銀行間決済システム)の動きは,ロシアよりもはるかに活発である。

 中国が「一帯一路」構想を打ち出し,それを外交交渉の中心的なものに位置付けているのは,2015年10月にSWIFTとは別のものを構築するためでもあると見なせる。

 CIPSは,国際送金の手続きを英語で行う。システムに口座を持つ「直接参加行」と,直接行を介してつながる「間接参加行」で構成され,いずれかと取引すれば中国企業の口座に簡単に資金を移せるという仕組みである。

 2019年4月時点の数値では,865行がこのシステムに参加している。2018年12月に「モスクワ信用銀行」が加盟し,全体では23行が名を連ねた。

 トルコも11行が加わった。18年11月にSWIFTへの接続を遮断されたイランも,いずれCIPSに参加することになるだろう。

 しかし,人民元が基軸通貨にまで地位を高める可能性は低い。CIPSの規模はまだ豆粒程度でしかない(『日本経済新聞』2019年5月19日,電子版)。しかし,中国が,「第四世界」の中核になるであろうことは疑いない。

[参考文献]
  • Xu, Wenhong[2017],"The Impact of the Financial Sanction against Russia by the West and some considerations" Academic Journal of Russian Studies, 2017, Vol. 5.
  • Xu, Wenhong[2020], "The SWIFT System: A Focus on the U.S.–Russia Financial Confrontation", February 3: htts://russiancouncil.ru/en/analytics-and-comments analytics/the-swift-system-a-focus-on-the-u-s-russia-financial-confrontation/
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1826.html)

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