世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナウィルスの猛威が与えた深刻な事態を切り開いていくために
(立命館大学 名誉教授)
2020.07.13
突如襲来したコロナウィルスはグローバル化を進めてきた世界に未曾有の悪影響を与え,目下,各国はその対処に追われている。グローバリゼーションの進展を肯定的に考え,ヒト,モノ,マネー,情報の国境を越えた交流を促進し,あるいは容認してきた世界の主要な流れは,一転して国境を閉ざして,国外からの進入を遮断し,閉鎖された枠内での感染の鎮静化に鋭意集中している。とはいえ各国政府の対応は一律ではなく,なかにはスウェーデンのように,都市封鎖(ロックダウン)をせずに,多くの人が感染して「集団免疫」の獲得を目指す方策をあえてとっているところもある。
さてこの悪影響だが,筆者も実際に経験したことだが,使わなくなった古着類を廃棄物処理センターに持っていったら,3月になって突然に受入中止の通達が出された。単純に自宅待機になった各家庭からの廃棄物が一挙に増えて処理に困ったのだろうかと想像したが,真相はそうではないらしい。これらの中古品の輸出先であるマレーシアやフィリピンが受入を停止したため,国内に古着が滞留したためである。さらにいえば,これらの国はこうした古着類を選別して,アフリカ諸国などに再輸出していたが,それも当然に滞ってしまった。物流のグローバルな連鎖が切断されたのである。このことはアパレル産業全体にも影響を与えている。季節品を売り逃した各社は財務リスクの拡大を恐れて仕入れを抑えはじめている。従来は特売セールによって在庫の減少に努めていたものができにくくなり,その結果,資金繰りにも苦しみ,やがては生産にも響いてくることにもなりかねない。もちろんそれは,海外での割安な労働コストに依存しているグローバルなサプライチェーンの途絶や中断にも見舞われることになる。このことは当然に労働集約財に依拠する途上国の輸出産業にも深刻な影響を及ぼす。
労働力移動が途絶えたことは,これらの外国人労働に依拠している先進国や産油国の中の一部の富裕国にも悪影響をもたらしている。自国の労働者ではなく,近年は主に東欧からの季節労働者に頼ってきたイギリス,フランス,イタリアなどの農業は大ピンチに見舞われている。このことは,実習生の名目での外国人農業従事者が来れなくなった日本にも影響が出ている。また中東産油国はこれまではその潤沢な資金を使って外国人出稼ぎ労働者に依拠してきたが,原油価格の低迷は雇用環境の急速な悪化をもたらし,低賃金かつ劣悪な労働・生活条件と相まって,彼らの帰国を早めている。
こうした新事態は,出稼ぎ労働依存からの脱却を図る動きにもなってきている。たとえば,ゴム手袋世界最大手のトップ・グローブ社(マレーシア)は,コロナ需要の増があるにも関わらず,出稼ぎ労働に依拠できなくなっている現状を踏まえ,今後はAIやロボットを使った生産に大胆にシフトしようとしている。
もっともさらに悲惨な現状も報告されている。先進国から途上国へと感染が広がってきているが,医療施設の不備に加えてその埋葬も十分ではなく,そのため遺体を運ぶ作業に外国人労働者がつかざるを得ない状況がラテンアメリカに起きている。危険は承知の上で,祖国に残している貧しい家族への仕送りのため,敢えてこの危険で苛酷な作業に従事するという外国人労働者の存在である。
このようにみてくると,コロナウィルスの襲来はグローバリゼーションの進展をややもすると楽観的に考えていた各国指導者や企業家達に冷水を浴びせた形になり,その行く末に赤信号が灯ることにもなった。とりわけそのことは我が国の中小企業に従来にも増して深刻な影響を与えてきている。岡三証券のリポートは陸運,小売リ,宿泊,飲食,生活関連,娯楽,医療福祉の7業種でコロナウィルスの影響が受けやすく,将来第2波が襲来した際には,事業継続の意欲を失い,自主廃業する企業が続出するのはないかと警告している。しかも本来ならそのための支援を行うべき地銀が軒並み経営不振に陥っていて,場合によってはその余波を受けて,銀行自体が店じまいすることだってあり得るとしている。そうならないためには公的資金を地銀に注入することだが,将来この公的資金を返済できるまでに業績が回復できるかどうかは疑問だという悲観的な見通しを立てている。
科学と技術の発展を受けて世界が一つになり,手を携えてともに共存・共栄していくべき21世紀世界が,現実には政治的,経済的な確執や摩擦に囲まれ,加えてパンデミックの襲来はさらに事態を深刻にしているが,世界の人々の「連帯」精神の発揚はこれを前進的に切り開いていく道を必ずや見つけ出すだろうことを期待してやまない。
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関下 稔
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