世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1765
世界経済評論IMPACT No.1765

コロナ後の世界:米中二分割のシナリオ

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2020.06.01

 トランプ大統領は5月14日,コロナ問題での中国との関係において,最も強いコメントの1つをした。コロナに関する情報を秘匿したとして中国に何らかの制裁を検討している。

 だが2年以上に亘った貿易戦争を以てしても,中国中心になってしまった世界のサプライチェーンの切断は十分ではなかった。米供給管理協会(ISM)の春季調査では,米国企業の約4分の3が,中国国内のサプライチェーンが途絶したと回答した。

 そこで米国はコロナによる多数の死者と経済破壊により米国のサプライチェーンを中国から遠ざけようとしている。商務省その他の機関は企業に調達と製造を中国から移転させる方法を模索し税制優遇と再雇用補助金等が検討されている。

 このサプライチェーンの問題は,一帯一路構想にも繋がる。アンゴラ,ザンビア,スーダン,コンゴが,コロナ対策で借金の清算を中国に要請した。中国は二国間協議を拒否。二国間交渉では無理と認識したアフリカ諸国は,IMFに対し1000億ドルの救済パケッジを要請する一方440億ドルのリスケも申し出た。中国はアフリカの49ヶ国に合計1430億ドルの債権がある。

 一帯一路借款ではインフラ整備に特定の中国業者を使う必要がある。ファーウエイやCRBC等が含まれ大量の担保を要求し貧困国に「罠」を作り出す。2017年,スリランカは戦略的港を奪われた。

 中国は世界覇権の野望を隠さない。

 しかも中国は,コロナ問題について嘘をついた。中国当局は6日間,新型コロナを国民に警告しなかった。その時期に数百万人が旧正月の旅行を始めた。中国政府が3週間早く行動した場合,感染者は95%減少した可能性がある。

 その結果,米商務省が発表した,4−6月のGDPは年率38%のマイナスになると予想。また米労働省は5月14日の発表では,コロナ発生による閉鎖以来2か月の合計失業保険申請件数は3,600万件以上になった。これは全て大恐慌以来である。

 そして米国での死亡者は5月末には10万人を超えた。

 ピューリサーチセンターが発表した3月実施の調査では,米国民の約3分の2が,中国に対し不利な見方をしていて同調査開始以来の最高の否定的な評価である。5月13日に発表されたYouGovの世論調査でも69%は中国がコロナに責任があると考えており,67%が中国を敵と見なしている。

 このように米国民の対中報復感情は高まるばかりだが,トランプ政権は意外に慎重姿勢で,例えば5月15日にはファーウエイ社への制裁強化が発表されている。中国側も昨年の半導体輸入額は3000億ドルで,その多くは輸出用の製品に組み込まれる。そこへ今回は米国以外の国で作られた半導体でも米国製の機械を使って作られた半導体のファーウエイへの輸出を禁止する措置を取られた。

 製造業サプライチェーンで働く労働者は1億4000万人。輸出激減により,この部門でも今まで以上の失業が出る。

 既に米中貿易戦争で対米輸出は20%前後の減少。対日も16%減,欧州向けスマホとパソコンも20%の減少。倒産,廃業が46万社。中国の失業率は一部の中国人の経済学者が二億人と見積もっている。

 中国は次第に,戦争にまで追い込まれて行くのかも知れない。

 だが例えば中国企業が米国の証券取引所に上場するには米国の会計規則に従うことを要求する法案が5月下旬に米国議会で可決したが,それでは中国企業が米国以外での上場を行うのではとトランプ氏は懸念も表明。やはり慎重姿勢なのである。

 それは米中の経済が製造業サプライチェーン以外にも複雑に絡み合ってしまっているからである。

 米国はコロナ被害弁済のため1兆1000億ドルの中国が保有する米国債をキャンセルする計画もあるが,そんなことをしたら長期金利上昇で米国の企業等も困る。中国は輸出のための「外貨の天井」として3兆ドルの外貨準備が必要。人民元が一種のドルとのペッグ制なので,ドルの裏打ちがないと貿易決済が出来ない。そのドル準備の約3分の1は米国債だった。

 しかし2013年11月の1.32兆ドルから,2020年2月には1.09兆ドルに下落。米ドル資産自体が,2014年末の中国の総準備高の58%を占め,2005年の79%から減少している。つまり中国としては米国の影響から脱したいのである。

 これは逆に米国が米国債をキャンセルした場合の影響を減らしているとも考えられる。またキャンセルする国債の償還期限を調整する(短期国債を中心にキャンセルし長期国債は温存する)ことで長期金利上昇を抑える方法もある。

 中国も最悪は米国債を人民元で売却することを考えている。だが,そんなことをすればドルとのペッグ制のお陰で価値を保持している人民元が崩壊し中国自体が崩壊する。サプライチェーンの分断による中国(製造業)経済の困窮もある。

 だが一帯一路で中国寄り途上国を人民元と自国中心のサプライチェーンでの囲い込みに成功すれば世界は米中で完全に二分されることになる。

 例えばシリコン・チップの世界最大手の台湾TSMCは,アリゾナ州でのチップ工場建設に12億ドルを投資すると5月中旬に発表。すると中国の国家支援資金は,22億5000万ドルを自国の会社SMIC社の工場に投入し高度なチップ製造を支援。

 つまり半導体製造を巡っての米中による世界分割の始まりである。このトレンドは今後,加速されて行くだろう。

 それが最近いわゆるコロナ後の世界の基本的姿かも知れない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1765.html)

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