世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1762
世界経済評論IMPACT No.1762

COVID-19のパンデミックが加速させたエネルギー転換

橘川武郎

(国際大学大学院国際経営学研究科 教授)

2020.05.25

 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)は,世界経済に対して,1929年に発生した大恐慌以来と言われるほどの大きな打撃をもたらした。そして,その衝撃波は,エネルギーの分野にもはっきりと及んだ。生産・販売・サービス提供の縮小や,人々の移動の抑制などによって,エネルギーに対する需要が顕著に減退したのである。

 いろいろなエネルギーのなかで,とくに打撃を受けたのは,石油である。サウジアラビアとロシアとの対立によって原油の減産合意が一時的に破綻したこともあって,2020年4月20日には,アメリカ・ニューヨーク市場に上場する原油先物のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の2020年5月物が史上初めてマイナス価格をつけるという,異常事態さえ生じた。

 新型コロナウィルスのパンデミックが各エネルギーに及ぼす影響について,この原稿を執筆している2020年5月時点で正確に見通すことはできない。この時点で入手しうる予測のうち最も信頼できるものは,IEA(国際エネルギー機関)が2020年4月末に発表したGlobal Energy Review 2020である。同レヴューは,発表時点までの最新情報にもとづき,2020年における世界全体のエネルギー源別の対前年比需要増減を,石油マイナス9%,石炭マイナス8%,ガスマイナス5%,原子力マイナス3%,再生可能エネルギープラス1%と予測し,エネルギー全体ではマイナス6%になると見込んでいる。

 ここで注目すべきは,エネルギー需要全体が大きく減退するなかで,再生可能エネルギー需要が堅調に推移していることである。今回のパンデミックの発生以前から顕在化していた,使用時に二酸化炭素を排出するエネルギーから排出しないエネルギーへのシフト,集中型のエネルギー供給システムから分散型のエネルギー供給システムへのシフトという大きな流れ,つまり「エネルギー転換」と要約しうる流れは,パンデミックを通じて改めて明確になった。そして,この勢いはパンデミックを克服したのちの世界では,いっそう強まることになるだろう。

 加速するエネルギー転換の動きに取り残された感が強い日本政府も,ようやく重い腰をあげ,2018年に閣議決定した「第5次エネルギー基本計画」で,2050年までに「再生可能エネルギーの主力電源化」をめざす新しい方針を打ち出した。しかし,その一方で政府は,新方針を策定したにもかかわらず,2030年の電源構成見通しにおける再生可能エネルギーの比率を上方修正せず,2015年に決定したままの水準のである22~24%に据え置いた。これでは,政府が「再生可能エネ主力電源化」というスローガンを掲げながらも,それを本気で遂行する気がないのではないかという疑問が生じるのは,当然のことと言える。

 「再生可能エネ主力電源化」を本気で実現するためには,何をなすべきだろうか。まず確認しなければならないのは,FIT(固定価格買取制度)による拡大ではなく市場ベースでの普及を進めるという,「再生可能エネ主力電源化」への王道に立ち返ることである。

 そして,そのためには,二つのアプローチがある。一つは既存の枠組みを維持したままのアプローチであり,もう一つは「ゲームチェンジ」を起こし,新たな枠組みを創出するアプローチである。

 既存の枠組みを維持したままのアプローチに関しては,とくに送電線問題を解決して系統制約を解消することが重要である。原子力発電所の廃炉によって「余剰」となる送変電設備の徹底的な活用,電力会社の経営姿勢の変化等がもたらす送電線投資の活性化,スマートコミュニティの拡大や水素の利活用などが進展すれば,送電線問題の解決は可能である。

 新たな枠組みを創出するアプローチとしては,電気が足りないときは再生エネを電力生産に充て,電気が余っているときには再生エネを使って温水を作り貯蔵・活用する「パワー・トゥー・ヒート」を普及させることが有意義である。「電気を電気で調整する」方式に代えて「電気を熱で調整する」方式を導入することによって,再生可能エネにかかわるコストを最小化するわけである。

 これら二つのアプローチが相乗効果を発揮すれば,日本においても「再生可能エネルギーの主力電源化」は実現しうる。COVID-19のパンデミックを経て世界中で加速するエネルギー転換の流れに,わが国は,もうこれ以上,取り残されてはならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1762.html)

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