世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
直視すべきグローバリズムの崩壊:中国経済の台頭を助長したアメリカ
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.05.25
グローバリズムの崩壊
1981年からアメリカのレーガン大統領が,ミルトン・フリードマンの「新自由主義」の旗を掲げて「グローバル化」に走った。小さな政府にし,規制撤廃し,全て市場に任せることにした。そしてそれまで造り上げてきたアメリカの経済活動・市場の動きのための「制御装置」(証券取引法,10-B5,ペコラ委員会レーポートなど,詐欺的行為の摘発と排除システム)を骨抜きにし,国際金融資本,多国籍企業が自由に動き回れるようにした。これにより企業は最も安い労働賃金を求めて,国境を越えて走り回り,やりたい放題のリストラ,首切りをし,お金を使ってロビー活動して政府を企業の思うままに動かし,利益の追求をした。多国籍企業にとってのコストダウンのために効率的な「グローバル・サプライチェーン」が出来上がり,これで動き回る多国籍企業,国際金融資本が,国民国家の産業管理力,経済管理力を弱体化させた。大企業,多国籍企業は世界市場で市場を独占し,膨大な利益を上げたが,タックスヘイブンに潜り込み,税金を払わなくなった。労働者の賃金は切り下げられ,国民大衆は貧困化し,所得格差は悪化し,国民国家の経済の錯乱と長期停滞をもたらした。
しかし多国籍企業は,チキン戦争で,世界市場で熾烈な価格切り下げ競争をしたために,利益がでなくなり,ついに疲弊してきている。グローバル化は,イノベーションを停滞させ,最終的には,誰も儲からず,地獄に落ちてゆくものであるということが分かってきた。グローバル化を仕掛けたアメリカも疲弊し,国民中間層を消してしまい,所得格差を激化させ,経済は衰退してしまい,覇権国の座も怪しくなってきた。
アメリカのトランプは,このデッドロックに突き当たった「グローバル化」を否定して,「ポスト・グローバル化」に舵を切るということで大統領になった。EUでも,ブリュセルのEU本部がグローバル化を推し進めてきたが,その矛盾がでてきて,イタリア,スペイン,フランスだけではなく,一人勝ちで成長してきたドイツ経済も今おかしくなってきている。イギリスは,このEU本部のグローバル化政策に反抗し,ブレグジットを選んだ。これからEUの構造が崩され,再編成されることになろう。
2001年頃から日本の小泉政権が,アメリカのグローバル化の尻馬に乗り,グローバル化に走り出した。規制撤廃,何でも民営化,非正規社員制度,移民導入を広げ,労働者の賃金を下げ,大企業をグローバル市場に解き放った。この結果,日本経済はデフレになり,国民は貧困化し,中小企業は疲弊し,大企業も世界的な価格切り下げ競争に陥り,衰退してきた。こうして日本の内需が縮小し,経済は衰退してきた。これで日本の家電産業も自滅し,世界に手を広げた自動車産業のトヨタも,急速に成長してきた日本電産やユニクロも疲れ果て,行き詰まりの状態になっている。トヨタの豊田社長は「もはや日本型雇用制度を続けることはできなくなった」と言った。しかし日本政府は未だにグローバル化に走っている。
中国経済の台頭
もともと毛沢東に資金を与えて共産党を作らせたのはアメリカの国際金融資本であった。アメリカのキシンジャーは,中国の鄧小平に金と技術を与えて中国に「世界の工場」を作らせた。そしてアメリカは,膨大な人口の中国市場をアメリカの資本主義経済圏に包摂して世界経済を拡大しようという「中国に対するエンゲージメント」を進めてきた。共産党はもともと「グローバル化」で世界に勢力を拡大し続けるというDNAを持っている。アメリカの助けにより中国共産党は,水を得た魚のように動き,中国経済を急速に拡大させ,2010年にはGDPで日本を抜いて世界二位になった。その勢いで中国は,「一帯一路」計画により,アジア,ヨーロッパ,アフリカにもその版図を拡大し,日本にもその侵略の手を伸ばして来ている。
キッシンジャーは,中国の急速な発展で,「米中で世界を二分して統治しよう」というG2構想を中国に持ち掛けていた。アメリカは,中国が経済的に発展すれば共産主義的統治ではなく,国際社会で責任ある利害共有者になり,民主的な国になるだろうと思った。かつてCIAの仕事もしていたエズラ・ボーゲル氏も鄧小平の率いる共産党支配の中国は,経済が豊かになれば民主的な国になるであろうと見ていた。
しかし中国はアメリカが期待したようなものにはならないことが分かった。中国は,「知的所有権」を認めないし,人権を弾圧し,「為替の自由化」も「資本の自由化」もするつもりはない。中国が資本の自由化と為替の自由化を認めると,共産主義体制は崩れてしまうので中国は資本の自由化も為替の自由化もしない。中国は,民主的な「法治国家」とは言えない。中国には「国家情報法」というものがあり,「いかなる組織および国民も,法に基づき国家情報活動を支持,協力し,知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない」。つまり国民に密告させ,国のためにスパイ活動を強要している。共産主義国は,常に国民を弾圧し,反政府分子を監視し,摘発し,排除しなければ,国は成り立たないのである。こんな中国を資本主義経済市場の仲間に入れる訳にはいかない。これまでは,アメリカは「政経分離」で,中国と交易してきたが,今やアメリカはこれを止めることにした。
老練な鄧小平の「韜光養晦」にアメリカは騙されたのである。習近平が「中国製造2025」を発表し,「中国は2049年には世界一の覇権国になる」と宣言し,「日本は2040年頃には無くなっている」とも言った。これでアメリカはブチ切れ,2018年10月と2019年10月にトランプの了解を得て,ペンス副大統領が講演し,中国の共産党政府にたいして「宣戦布告」をした。この宣戦布告は,アメリカ議会の民主党,共和党が挙党一致で決意したものである。
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