世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
リモートワークの導入が日本人の個性化を促す
(元文京学院大学 客員教授)
2020.05.18
コロナウイルスという禍に振り回されている日々である。ようやく新規患者数が減少傾向を示すようになってきているが,この病魔としばらくの間付き合って生きていくニューノーマル(新常態)の在り方が議論されている。この病が我々にもたらした甚大なネガティブな局面だけに目をとらわれるのではなく,これに対処するために我々が取ってきた新しい生き方の中に今後の日本再生のための新しい方向を示すものがあるのではないかポジティブに考えるべきではないかと思う。日本には「災い転じて福となす」ということわざがある。
私は,本欄2020.01.20(No.16039)において,海外では家庭や学校において,学生は自分の夢をもって主体的に学び,互いに議論しあって切磋琢磨する教育を受けており,個が確立しており,そのような個と個のせめぎあいの中から画期的なイノべーションが生まれているとのべた。日本では組織に寄りかかることが良しとされ,個は組織の中に埋没されていて,公の場で個と個が論理的に議論しあうことは避けられてきた。こうした土壌をもう少し個性を尊重する方向に変革しないと世界で海外のエリートと互角にやりあえるグローバル人材は育たないのではないかと述べた。
しかしながら,ビジネスの現状をみると,農耕作業を村単位で協力して行ってきた伝統をべ―スに生まれた日本的経営の基本構造の上記のような部分にまで手を付けることは,テレワ―クの提唱などの動きはあったものの,まさに「笛吹けど,踊らず」で本格的な取り組みはいままでほとんど進んでいなかったと思う。
そこに今回のコロナウイルス禍がまさに天変地変のごとく我々を襲ったのである。今まで当たり前とされてきたことは,仕事とは「会社という場に出勤して,仲間と一緒にやるもの」であった。ところが三密を避けるために仕事は可能な限り在宅勤務となつた。会社という場から離れ,周囲には自分一人しかいない。従来は周囲に上司と仲間がいて,「ホウレンソウー報告,連絡,相談」をしながら仕事をするのが良しとされてきた。新常態では自分一人で考えてやることが多くならざるを得ない。こうしているうちに自分の職務(JOB)とは何かその輪郭が見えてくる。そこに自分という個の意識が芽生え,自分はその職務を行うために仕事をしており,報酬はその仕事の対価であると考えるようになる。職務給という考え方が受け入れられる素地が生まれてくる。
従来日本の会社の大多数ではそうだと思うが,会社の会議に出る時は取り上げられる議題に対する上司の大まかな考え方を事前につかんでおいて,始まったら「上司の意向を忖度し,仲間がどう考えているかその場の空気を読んで自分がでしゃばらない様にするのがよい」とされてきた。仕事本位の突っ込んだ議論がされることはあまりなかった。
今回のコロナ禍でにわかに採用されているのがオンライン会議だ。この方式では事前に上司の意向を探る機会は限られてくるから,事前に自分の見解を纏めておいて,発言することになる。場の空気を読もうにも各個人の場は隔離されており難しい。会議は今まではなかった個と個の間で仕事本位に異なった意見を出し合い議論してゆく場になっていく。
このような動きは水面下でまだ始まったばかりで見えないが,3年あるいは5年後には水面上に顔を出し大きなうねりになって,日本のビジネス界に大きな変革をもたらすのではないか,私はそのように見ている。
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