世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トルコ軍が企てる北イラク総攻撃:試されるクルド人の団結
(ジャーナリスト norifumi.namiki@gmail.com)
2020.05.04
遅ればせながらコロナ禍が中東に拡がっている。特に深刻なのはイランとトルコである。トルコは3月中旬に初めて感染者が確認されてから急速に感染者,死者が激増した。一方,これらウイルス対策に失敗した国々に挟まれるイラクでは,感染者2000人以上,死者100人未満と感染爆発と言える状況には至っていない。そして中央政府が3月17日に発した外出禁止令も緩和されつつある。しかし,コロナウイルスの変異と新たな感染爆発の可能性がある以上緊急事態が続くことには変わりはない。イラクは先進国に比しての不十分な衛生習慣,政府の機能不全等,感染拡大のリスクを多く抱えている。しかし,アラブ人,クルド人,アッシリア人,テュルクメン人等民族の違いを超えて団結すべき今,新たな内戦の火種が生じている。
イラク領内に不法に駐留するトルコ軍がコロナ禍により軍事行動を一時停止するのではなく,逆に活発にしているからだ。イラクにはトルコのクルド人の解放を目指す武装勢力クルディスタン労働者党(PKK)の本拠地があり,トルコはその掃討を口実にイラク領内で軍事行動を続けてきた。トルコは先月17日,PKKが司令部を置くカンディル山を空爆した。トルコはウイルス封じ込めに失敗しており,先ずは体制の立て直しが急務であるにも関わらず他国への侵略行為を進め,コロナ危機を悪化させようとしている。
トルコは近いうちにカンディル山への総攻撃と占領も企てているとも噂される。クルディスタン民主党(KDP)はトルコの軍事行動に歩調を合わせるかのようにカンディル山付近の小村へ部隊を配備した。各方面からKDPの措置へ強い反発が相次いだ。カンディル山では「裏切者に死を」と叫ぶデモ行進が行われた。この部隊配備は過去の対立を再燃させる危険性を孕む。カンディル山はイラクのクルディスタン地域の2大勢力の一つ,クルディスタン愛国者連盟(PUK)の勢力圏なのである。KDP,PUKは過去血みどろの内戦を繰り広げ,米大統領クリントンの仲介により停戦,提携の道を歩み始めた歴史がある。それが今日のクルディスタン地域政府成立の礎となった。近年PUK側は分裂騒動や指導部内の不和等により,KDP側に主導権を奪われ続けてきた。それでも独自の軍隊を保持しており,KDPが一線を超えれば事を構える用意は未だある。トルコと共にKDPが敵視するPKK自体もクルディスタン内部で大きな影響力を持つ。昨年1月,トルコ軍の軍事行動に怒った住民が大挙してトルコ軍基地に押し寄せ破壊行為を働いた事件は記憶に新しい。トルコとKDPがカンディル山占領という軽挙妄動に走れば,PKK壊滅につながることはなく内戦と地域崩壊の端緒となる可能性がある。コロナ禍をきっかけに一層の団結を深めるのではなく,そのさなかに新たな内戦の危機が生じる。クルディスタン地域は危機において馬脚を露すことになってしまった。
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