世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1702
世界経済評論IMPACT No.1702

インフォデミック社会に抗して:ブロックチェーンへの期待

本山美彦

(国際経済労働研究所 所長)

2020.04.20

集団パニックを引き起こす膨大すぎるウェブ情報

 ITに人々の関心が高まるにつれて,カタカナの新語がメディアに氾濫するようになった。パンデミック(世界的流行),ロックダウン(都市封鎖),クラスター(感染集団),オーバーシュート(爆発的拡大)等々,枚挙に暇がない。「インフォメーション」(情報)と「エピデミック」(病気の蔓延)の合成語だと想われる「インフォデミック」はその中でも新語中の新語である。互いに偽情報とする過剰な非難の応酬が,ウェブ内でそれこそ,オーバーシュートして,集団心理を右往左往させている新しい社会現象を指す言葉としてひとまず定義しておこう。買い占め,買い溜め,素人が専門家を差し置いて目立ちたがる風潮等々が,インフォデミックである。

 ツイッターに1日で数千件載ると大流行になることはこれまでの経験から予測できる。しかし,トイレットペーパー騒動は,1日に数十万件のツイッターがあった。この傾向に歯止めをかける手段を私たちが見出さねば,社会はとんでもない方向に転落してしまうだろう(『日本経済新聞』2020年4月6日付,朝刊)。

中国・「京東集団」(ジンドン)のブロックチェーン技術力

 偽物対策で大きな成果を収めた中国第2位のIT企業「ジンドン」への評価が高まっている。それは,同社の傘下にあるスーパーが本物を正しく伝える技術を,ブロックチェーンを使って開発したことによる。

 2019年1月,ジンドンは北京にスーパー「セブンフレッシュ」を開店した。売り物は,買い物客に従うロボットである。客が立ち止まると止まり,客が動き出すと後に付いて行く。

 同店は,24時間を賞味期限とする生鮮野菜を中核に置いている。商品のバーコードをスキャンすれば,モニターに商品の履歴が瞬時に映し出される。産地から加工場に運ばれる経緯と時間,荷卸し,加工,包装に掛かった時間,陳列までの時間等々が,商品1パックごとに詳細に表示される。水産物も同様である。QRコードを読み取ると,いつ,誰が運んだかが分かる。価格は通常商品よりも割高だが人気があり,売上げを伸ばしている。

 中国の市場では,偽物が大量に出回っていると言われてきた。陽澄湖(ようちょうこ)特産の上海蟹がその典型である。ネットで販売されている上海蟹の90%以上が偽物であるそうだ。

 こうした偽物を防ぐために,同店で採用されたのが,暗号化技術を使ったブロックチェーンである。通常のインターネットでは,情報はサーバーで集中管理されているために,ハッカーからの攻撃を受けやすく,情報の流出や改竄がなされてしまう。しかし,ブロックチェーンでは情報は分散して管理され,高度に暗号化されるために,情報は改竄されない。同店では,同店に認定された生産者や物流担当者が,商品のQRコードに情報を登録する義務がある。こうして,情報は改竄されることなく,消費者に届けられる。同店は,5万を超える種類の商品をブロックチェーンで管理している(小平和良「中国2位のネット通販,無人店舗のスーパー開業」『日経ビジネス』2018年4月9日付)。

世界の先端を行く中国の第五世代(5G)通信

 2020年から本格的に運用が始められる次世代の通信企画が5Gである。上記のブロックチェーン技術が実用化されるには,5G網を世界中に張り巡らさねばならない。あらゆる先端技術を5Gのネットワークで繋ぐ試みの先頭に立っているのが,中国企業である。中でも「ファーウェイ」(華為)が群を抜いている。

 通信速度において,前の世代の4Gの10~20倍もある5Gは,様々なハイテク技術に不可欠な通信インフラになる。ファーウェイは,従業員19万人,売上げ13兆円(2019年)という巨大企業である。同社が深圳で開発中の5Gのスマートシティは,行政システムや交通網などあらゆる都市機能を繋ぐことを目指している。例えば,刻一刻と車や人の混雑状況をスマホで把握,車からのデータを解析,交通渋滞の解消策を即座に打ち出せる。ファーウェイの5Gを導入,ないしは導入を検討している国は世界に80を超えている。5G通信基地局のシェアは,ファーウェイが世界の34%,同じく中国のZTEが18%,サムスン電子が21%,エリクソン(スウェーデン)15%,ノキア(フィンランド)である。トランプの米国は3%にも達していない(https://wired.jp/2019/05/23/china-will-likely-corner-5g-market-us-no-plan/)。

 米中貿易摩擦を云々する議論は事態の深刻さをまったく理解していないフェイクニュースに他ならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1702.html)

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