世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1678
世界経済評論IMPACT No.1678

“恐慌論”に学び即「アベノミクスの真逆」政策実行を

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.04.06

 私は大学で高木幸二郎先生のもとで「景気循環論」「恐慌論」を勉強した。書物や資料でアメリカの1929年大恐慌の内容を知り,それは大変衝撃的なものだった。しかしその大恐慌を自分が生きている間にこの目で見ることになろうとは思ってもみなかった。

 1975年頃,デトロイトでフォード家の弁護士をしていたフランク・ドノバン氏に聞いたことがる。その方はハーバード大を出てニューヨークの証券会社で仕事をしていたが,1929年10月24日のニューヨーク株式市場の大暴落に会い,株などに関わっていると自分の人生がおかしくなると思い,直ちにデトロイトに行き弁護士になったという人だ。ドノバン氏は,10月24日から28日の間に,株の大暴落で一瞬で財産を失った幾人もの人がニューヨークの高層ビルの窓から飛び降り自殺をしたのを目撃したと言っていた。日本でも,経済不況,恐慌で多くの自殺者がでたとことが報告されている。日本の自殺率はOECD諸国の自殺率に比べ景気により敏感に反応していると言われ,特に失業率と自殺者数は関連していると報告されている。

 トランプは,3月28日の記者会見で,このコロナ(チャイナ)ウイルスのために経済恐慌が起こると,大量の失業者がでるだけではなく,自殺者もでるといった。そのためにトランプは200兆円の財政出動をすると宣言し,議会もこれをすぐ承認した。この数字はアメリカのGDPの10%に当たる。1929年の大恐慌ではアメリカのGDPの40%が消えてなくなった。従ってトランプはもっと経済対策をしなければならないであろう。今回の大恐慌はコロナウイルスという心理的な死という恐怖も国民に与えている。

 大恐慌は経済のバブルの絶頂期に突然襲ってくる。アメリカではトランプが大統領になって以来,FRBに金利を下げさせ,大減税をし,株価を吊り上げ,景気を良くしていたところでこれが起こった。しかし日本はこの20年間超デフレで,経済は停滞し,国民の所得は下がっているなかで,安倍内閣が消費税を上げたところで恐慌になった。日本の今度の恐慌は「安倍消費税コロナ大恐慌」と呼ぶべきもので,その被害はアメリカとは比べものにならないくらい深刻なものになるであろう。

 2008年のリーマンショックの時は金融界と製造業がやられ,首切りが起こったが,その首を切られた人達はサービス業で仕事にありついた。しかし今回はコロナウイルスで先ずサービス業がやられているのでその深刻さは比べ物にならないものになる。勿論既にコロナウイルスにより,中国のサプライチェーンが壊れ,製造業がストップしているところが多い。

 資本主義経済は,ほっておけば必ず詐欺的行為と,マネーゲームによりバブルが起こる。このバブルのなかで実体経済からかけ離れた過剰な金が経済を錯乱する。その過剰になった金を実体経済に合わせて清算し,消してしまうのが恐慌である。しかし1929年の株式の高騰と急激なクラッシュはどうして起こったかを,1932年アメリカ政府はペコラ委員会をつくりそれを調査した。その結果インサイダー取引や空売り,フェイクニュースを流して株価を吊り上げる,不良債権を切り刻んで分からないようにして売りさばくなどのいろいろの詐欺的行為,違法行為があったことが分かった。その犯人の一人はジョン・F・ケネディのお父さんであった。お父さんは詐欺,不正の手口の詳細を正直に白状した。これによりアメリカは詐欺を摘発するための「仕組み」を作った。しかしレーガン大統領はその「仕組み」を骨抜きにし,詐欺師たちを野放しにしたことにより,リーマンショックと今回の大型の恐慌を招くことになった。

 私の先生の高橋正雄氏は1990年頃,私がまだ恐慌について勉強していると言うと,「三輪君,1929年のころとは違い今や国際金融機関,世界銀行,IMFなどがあり,しかも通信網が発達してきたので,銀行の取り付け騒ぎのような恐慌は起こらないよ」と言われたが,どうもそうではないようだ。

 現在,世界にはGDPの総額の4倍以上の金が出回っている。日銀の黒田氏もこれに加担している。経済活動における必要な金はGDPより少し多いぐらいが正常である。トランプは200兆円の緊急財政発動と400兆円のFRBの資金供給を投入するらしく,ドイツ,日本,中国などもGDPの10%以上の金を出すことにしている。しかしこれだけの金がどっと出回ると,金利のコントロールを誤れば恐慌の惨事は想像ができないほど激しいものになる。そのコントロールが重要となる。

 けれども恐慌により世界の過剰な金が消却され,過剰な生産設備も破棄され,GDP,所得が30%くらい消えてなくなることになる。この過剰なものが消却される過程が恐慌に続く大不況であり,これが完了すると世界経済は再び拡大することになる。好景気,不況と言う「景気循環」はこれまで10年毎に起こっているが,本格的な実体経済と過剰な金の清算という大恐慌は60年から80年毎に起こっている。

 重要なことは,恐慌,大不況をへて過剰な金と過剰な生産能力が清算された後,新しいイノベーションの波が興ることである。これを理解しなければならない。

 恐慌,大不況の過程で,国民大衆が生き残るために,国が如何に適切に市場に金を注入するかという「経済政策」が極めて重要となる。1929年の恐慌では,ケインズもその経済政策を教えてくれたが,多くの失敗をした。しかしアメリカはそれを学んでいるので今度は旨くやってくれると思うが,日本はそれを学んでいないので,大変心配である。

 コロナウイルス感染で分かったことは,ここ20年間のグローバル化で,世界的に「緊縮財政」でどこの国も「医療施設」や社会的インフラを削減してしてきたことである。そのために入院患者に適切に対処出来なく,感染を過度に拡大した。特に日本がそうである。

 現在の先進国経済でのGDPの60〜70%は一般大衆がモノを買う消費財からなっている。その他は企業の設備機械投資,そして政府の支出である。近年経済がおかしくなってきているのは,一般国民の実質賃金が下がり,所得が少なく,消費財を買えなくなっているからである。内需が縮小しているので,企業は他国へ輸出ドライブをかける。これが世界経済をおかしくしてきた。特に日本のデフレで経済が衰退してきているのはこの理由である。日本の国民経済が拡大するためには,国民大衆の賃金が上がり,裕福になり,消費財を買い,モノとカネが回転すること必要である。勿論政府の支出も一時的には効果がある。

 従ってこのコロナ恐慌に対しては,日本は「緊縮財政」を忘れて,十分な金を国民大衆と中小企業の手に渡るような形で大至急注入することである。日本はこれから8年間ぐらい毎年50兆円ぐらい投入し続けなればならない。その金を,乗数効果の高いプロジェクトを創ってそこに注入し,賃金が上がり,イノベーションが進むようにすることが大切である。そして消費にペナルティを科す消費税を0%に戻すことが必要である。移民法の改正の破棄,非正規社員制度の破棄し,賃金を下げるような「働き方改革」は止める。こうすれば日本のGDPが拡大し,税収も拡大し,国民に所得も上がり,デフレを脱却できる。少子化も緩和できる。

 この大恐慌から日本は学び,正しい経済政策を実行しなければならない。これは「アベノミクスの真逆」を実行することである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1678.html)

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