世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1615
世界経済評論IMPACT No.1615

民間軍事会社は中東に安定をもたらすか?:2020年初イラン情勢の背景

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2020.01.27

 やっぱりだった。複数の米国有力メディアの報道によれば,2019年12月27日に,イラク派の攻撃で死亡した米軍関連業社とは,民間軍事会社の一員だった。この人物ハミド氏は,バージニア州に本拠を持つValiantintegrated社のアラブ語の専門家だった。このValiantintegrated社は,戦闘行為を主たる任務にはしていないものの,ロジスティック,メンテナンス,インテリジェンス等で,全世界的に米軍をサポートする業務を広範囲に行なっている。

 ハミド氏に対する報復として米軍は12月29日,イラク国内の複数のイラン派の拠点を空爆。それに対する抗議行動で12月31日,駐イラク米国大使館が暴徒に破壊された。

 この事態を受けてトランプ大統領の命令により1月3日,イラン革命防衛隊司令官ソレイマニ氏が暗殺された。それへの報復として1月8日,イランはイラク国内の米軍基地を弾道ミサイルで攻撃した。しかし死者等は出なかった。そこでトランプ大統領は9日午前“イランは自制した”として,これ以上のエスカレーションを米国側からは行わないという演説を行った。

 これに関しては色々な評価があるものの,アメリカによる経済制裁で国内が混乱して以来,約200人の反対派がソレイマニの命令で殺害されている。このような凶暴な圧政者をトランプ大統領は倒した——という評価も米国内にはあるのである。

 この革命防衛隊の中でも特に精鋭の“コッズ軍”は,多くの非常に危険な国際テロ組織を支援して来た。そして秘密情報機関の側面も強いという。

 そのためかトランプ氏の今回の行動は,テロ的な勢力の討伐以外では,もう米国は出来るだけ外国で軍を使うべきではない——という今の米国民の気持ちと,2016年の彼の公約を守ったものとして,少なくともトランプ氏は支持者離れしていないようである。

 むしろ「一人が殺されたら一人を殺す。誰も殺されなければ出来るだけ何もしない」という基準を明確にしている。それも対外的な抑止力になるとも考えられている。

 だとしても一業者の死と引き換えるには,ソレイマニは余りに大物である。このような“不均衡”は,なぜ生じたのか?

 一つにはトランプ政権のイラン政策とは,単に核兵器を持たせないだけではなく,世界的なテロ集団の支援を止めさせることが目的だからである。ソレイマニの死と昨年来の金融封鎖によって,この目的はかなり達成に近づくのではないか? 意外に早い段階で,アメリカとイラクが何らかの合意を形成する可能性もあるように思う。

 それだけではない。

 トランプ氏は大統領になる前から,中東地帯に展開する米国正規軍を,民間軍事会社に置き換える方針だった。イラクで不祥事を起こした民間軍事会社大手ブラック・ウオーター社長プリンス氏とは長年の盟友で大統領になる前から莫大な政治献金も受けて来た。リベラル派に叩かれて倒産寸前になった選挙コンサルタント会社の再建も任せた。彼の姉を教育長官にしさえした。

 そのデヴォス教育長官の学校民営化政策は,日教組ならぬ米教組が強く反対しているので,民主党も強く反対しているのだが,なんと民主党支持者でも9割近くが賛成しているという。

 やはり「民営化」というのは万能の薬なのである。

 中東地域の米国正規軍が民間軍事会社に置き換えられた場合,今の10分の1の予算で,同じ治安維持業務が出来るとされている。しかし正規軍の反対で容易には進まない。

 彼らの体面や利権の問題が大きいだろう。しかしイラクでの不祥事の問題も確かにある。

 トランプ大統領は昨年11月そのような不祥事の当事者の民間軍事会社要員を特赦にした。イラン情勢が緊迫化してから更に一人の特赦を行おうとしている。

 そのような背景を知っていた私は,12月27日にイラクでイラン派に殺された業者というのが,民間軍事会社要員ではないかと最初から考えていて。冒頭に書いたように,それは間違っていなかった。

 彼の所属していたValiantintegrated社が,ブラック・ウオーターと関係あるのかも知れない。そうであれば今まで述べてきた経緯からして,トランプ氏の行動の理由は推測できる。

 そうであっても無くても,ハミド氏はアラブ語専門家として,現地の情報収集に何らかの関与をしていた可能性が低くないように思う。そしてコッズ軍が知られたくない情報に関わってしまったのかも知れない。そのためコッズ軍に殺されたのかも知れない。

 そうであればコッズ軍のリーダーだったソレイマニ氏を暗殺したのは当然の報復だったことになる。

 今まで述べて来たような大掛かりな背景が,2020年初のイラン情勢緊迫に関してはあるのである。このような背景を良く知った上で日本人は中東情勢さらには米国に関して考え関わって行くべきだろう。そうでないと思わぬ失敗をして,中東石油や米国の世界戦略に依存している日本は,重大な危機に自ら陥ってしまうのではないかと思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1615.html)

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