世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1601
世界経済評論IMPACT No.1601

米国の対中政策失敗と先端技術国家中国の勃興

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.01.20

中国へのエンゲイジメント政策の失敗

 アメリカの「エンゲイジメント」政策で,中国は,経済を飛躍的に発展させ,2010年には中国はGDPで日本を抜いて世界2位の大国になった。世界銀行統計では,購買力平価でみると,2018年において中国はすでにアメリカのGDPを19%上回っているようだ。

 中国は,国内は保護主義で,国営企業に膨大な補助金を出すが,中国での外資に対してはいろいろの規制で縛り付ける一方で,外国に対して中国はグローバル主義で,世界中に進出し,国際ルールを無視して,モノ,カネ,人を押し込んでいる。

 中国は,外資との合弁企業にはその技術のソースコード,製品技術を開示することを強要し,技術を吸収している。合弁企業にビジネスをさせ,事業を拡大させるが,いつの間にかその合弁会社の製品とそっくりの製品が中国の会社で造られるようになり,しかも大変安く売られる。そのためにその合弁企業は商品が売れなくなり,最終的には技術も設備も金も残してその企業は中国から撤退する。

 中国は,経済は発展したが,民主的な国にはなってはいない。中国は国の上に共産党があり,人権を弾圧し,宗教を禁じ,イスラム教徒のウイグル人,チベット人を弾圧し続けている。中国は,全体主義で,法治国家とはなっていない。

 このような中国に対して,トランプも,アメリカ議会も,アメリカが中国を助けて発展させたこの「エンゲージメント政策」が失敗であったと考えるようになった。

習近平の夢「中国製造2025」

 2015年5月に国家主席の習近平は,中国の産業政策として「中国製造2025」を発表した。習近平は,マルクス・レーニン主義による共産党体制で中国統治を強化し,国を発展させると宣言し,そして「2049年に中国は世界一の国」になり,「中華民国の偉大な復活」すると言って国民に檄を飛ばした。

 しかしこの「中国製造2025」宣言の背景には中国の事情があった。中国は,「世界の工場」で下請け的な仕事で伸び,外貨を稼いできたが,中国の製品は基本的には外国技術の真似で,外国の基幹部品,基本素材を使って中国の安い賃金で組立てたもので,付加価値も低く,中国の経済力強化にはなっていない。中国は,スマホの世界の60%のものを製造しているが,その中身のキーコンポ―ネントは日本やアメリカのものを使い,中国の付加価値は極めて低い。習近平はこのことを良く理解しており,これからは自分で基礎研究・開発をし,イノベーションを興して,世界をリードする自分の技術,商品を開発しようと「中国製造2025」という檄を飛ばしたのであった。

 また習近平がこのような動きをしたのは,覇権国家としてアメリカが1990年ころからグローバル化して経済が停滞しはじめ,2008年のアメリカでリーマンショックにより世界経済が錯乱したとき,習近平が即座に4兆元を投入して世界の景気を支えたころからであり,習近平は南シナ海などにも進出し,一帯一路で覇権的な動きを始めた。

 中国経済全体で見ても,「世界の工場」でGDPを伸ばしたが,中国の経済成長の転換点が2011年に来て,それ以降経済成長がダウンしてきている。中国は「中所得国の罠」に陥ると習近平は恐れている。従って,イノベーションを自力で進め,コア技術は他国に頼らず自分で新しい産業を興し,中国を発展させようと檄を飛ばしたのであった。

 この「中国製造2025」での重点産業分野は,「次世代情報技術(半導体,次世代通信5G)」,「高度なデジタル制御の工作機械」,「ロボット」,「航空・宇宙機械」,「海洋エンジニアリング・ハイテク船舶」,「先端鉄道設備」,「省エネ・新エネ自動車」,「電力設備(水力発電,原子力発電)」,「農業用機材」,「新素材(超電導素材,ナノマテリアル)」,「バイオ医薬・高性能医療機器)」等である。

中国の先端技術開発

 中国は外国の技術を学びながらいろいろのものを開発してきたが,中国のような国家資本主義,全体主義の国家では,全く新しい技術の開発は効率よく進められる。特にその技術が人権にかかわり,人の生命,倫理にかかわる恐れのあるものは,民主主義の国よりも,良くないことではあるが,全体主義国家の方が迅速に開発が進む。中国のそうした先端技術開発のある分野では先進国のものに近づき,あるいは凌駕するものも出てきている。

 次世代通信システム機器5G 通信機器では既に中国は世界のトップの水準になっている。かなり技術を盗んだものもあるが,量子コンピュータ,AI技術,宇宙機器のレーダー,電磁波技術,AI技術,クラウド・ビッグデータ,自動運転技術,サイバー技術などで,アメリカに肉薄するか,アメリカより優勢になってきているものもある。中国は月の裏に衛星を到達させたし,レーザーで宇宙衛星を撃墜させる技術を開発している。

中国の5G次世代通信の戦略

 中国は,次世代情報技術である半導体,次世代通信5Gの開発を国家戦略として進めている。中国は,これからのデジタル社会においては,核兵器よりも「情報・データの支配力」が重要で,その基礎となる情報通信技術の世界のリーダーになることが重要であるとして,次世代の通信機器:5Gの間発に5年間で180億ドルを投入してきた。具体的には,鄧小平が創らせたファーウエーとZTEに開発させてきた。

 通信機器はデータ・情報を送るものであるが,基本的には昔の電話交換機のように,通信機器に流れるすべての情報・データは傍聴,盗聴できる。アメリカでも中国でも同じことができるし,アメリカも傍聴はやっている。つまりこの通信機器は自国のものを使う必要があるということである。

 3G(データ通信)では日本勢がトップであった。4G(大容量情報通信,スマホ)はアメリカがリードしていたが,中国が急速にこの力をつけてきた。しかし5G(社会全体のデータ通信と高度技術のインフラ)は中国のファーウエーが世界の主導権を握ろうとして活動している。ファーウエーの5G機器は価格が圧倒的に安く,競合企業は太刀打ちできないようだ。日本企業は4G,5Gの競争舞台から降りてしまった。

 アメリカ国防省のディフェンス・イノベーション・ボードが2019年4月に発表した「The 5G Ecosystem: Risk & Opportunities for DoD」というレポートで,「5Gではアメリカは中国に負けている」と正直に言っている。アメリカは,独禁法で通信企業のAT&Tを分割したために,通信技術においてイノベーション力が低下してきたと言われている。だからトランプがファーウエーを叩いている。

 今アメリカは,中国の「sub-6」(6GHz以下の周波数)とは違う技術「mmWave」(24GHz から100GHzの周波数)で6Gを開発しようとしている。アメリカは,国防で使っているミリ波を使おうとしているが,この高周波のミリ波技術は国防省が開発して所有していたので,民間への適用が遅れてきた。アメリカの狙っている6Gは,中国の5Gはアメリカの6Gには繋がらないが,アメリカのものは中国の5Gには繋がるというものである。アメリカの6G技術にはまだいくつかの解決すべき問題が残っているが,今トランプが号令をかけ6Gの開発を急がせている。完成すればアメリカの6Gは中国のものを押しのけるものになる可能性がある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1601.html)

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