世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米中覇権争いの行方と日本
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.01.13
(1)グローバル化の行き過ぎによる世界の分断
香港デモ
2019年6月から香港市民の「逃亡犯条例改正」に反対するデモが始まったが,ますますエスカレートしている。香港政府はこの条例改正を撤回したが,それでもデモは激しくなっている。アメリカ議会上院は11月19日「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決し,トランプもこれに署名した。そして12月8日にはアメリカで「ウィグル人権法案」が可決された。この香港デモは単なる香港市民の「逃亡犯条例改正」への反対ではなく,アメリカが,イギリスをも巻き込み,香港を舞台にして,「中国共産党」を潰そうとしている戦争である。これまで中国寄りの態度を示してきたドイツ,フランスまでもが中国の知的所有権の盗用や全体主義的な動きに反対を唱え始めている。
世界の各地で起こる反抗・デモ
世界的なグローバル化の行き過ぎで,格差が広がり,地域文化が壊され,大衆の貧困化が進んできたが,これに対して,国民大衆が為政者に反抗している。フランスの黄色いベスト運動,スペインの暴動,チリの反政府デモ,ベネゼイラの暴動,ボリビア市民反抗デモ,レバノンの反政府デモ,イラン若者の反政府デモ,ヨーロッパで起こっている移民に対するデモもそうである。イギリスのEU離脱もEU本部に対する反抗である。この世界的な反抗の波は世界を変えるのかもしれない。
トランプの関税戦争
トランプは,2018年7月から,アメリカ・ファーストでアメリカの貿易赤字の半分を占めている中国の輸出に対して関税をかけ,それをエスカレートさせてきた。中国が報復処置としてアメリカからの輸入に関税をかけ,米中の関税戦争が始まった。しかしこれは中国からの貿易赤字を減らすための単なる関税戦争ではない。また中国で生産しているアメリカ企業を本国に呼び戻すことではない。トランプは,関税戦争で,少し返り血を浴びても,中国の人権・宗教を認めない全体主義の共産党体制を解体させようとしているのである。
中国は,「世界の工場」で生産した商品をアメリカに輸出し,膨大なドルを稼ぎながら,これで軍事力を拡大し,「一帯一路」で世界覇権への手を伸ばそうとしている。これに対してトランプは本気で中国を叩きはじめた。
(2)アメリカと中国の関係
もともと毛沢東の中国共産党は,アメリカの国際金融資本グループの資金で結成され,拡大したものである。アメリカも,多民族国家の中国を統治するのは共産党のようなものでなければできないであろうと見た。アメリカは,中国を助けて,ソ連と中国を引き離し,逆に中国をソ連に対抗させながら,中国の膨大な市場を利用しようとした。1972年ニクソンとキシンジャーは中国に訪問し,毛沢東と会って中国との国交を樹立し,中国に資本も投入し,技術も教えると約束した。
その後キッシンジャーは,アメリカの国際金融資本グループの意を受けて,中国に,世界をアメリカと中国で二分して統治しよう提案したという。中国はそのアメリカの申し出に同意し,「中国は世界覇権を求めない」と言った。中国は,日本の脅威を感じ,アメリカに日米安保の破棄を要求したが,キッシンジャーは,日本の軍国主義を封じるために「日米同盟」は必要だと言って断ったという。アメリカは,中国が日本と手を取り合うの嫌った。
このようにしてアメリカは,膨大な人口をもつ中国をアメリカ経済の枠組みに入れて,発展しようとし,中国は経済的に豊かになれば,共産党体制を捨て,自由と民主主義の国になるであろうと考えた。
1978年,鄧小平は「改革開放政策」を発表した。経済を市場主義的資本主義にするということで,中国の沿岸地域を特区として外国から資本と技術を持った企業を呼び寄せ,中国の安い賃金による「世界の工場」を造った。これはキッシンジャーが鄧小平に仕掛けたもので,アメリカはそのために中国に科学技術と資本を提供すると言った。具体的にはレーガン大統領がアメリカのいろいろの軍事技術,産業の科学技術,資本を中国に提供し,中国をWTOにも入れてやった。鄧小平は「韜光養晦」で,目立たないように経済発展を進めた。だが鄧小平は政治体制としての共産主義は絶対に変えないと決意していたようだ。
しかし鄧小平の中国はこれまでの資本主義の国際貿易のルールを破り,やりたい放題のことをやってきた。西洋諸国や日本は,中国の膨大な市場を利用するという餌につられ,そのうち中国は民主主義の国になり,ルールを守る国になるであろうと思って,中国のこのような行動に目をつぶった。これがアメリカの中国に対する「エンゲイジメント政策」であった。アメリカに言われて日本も,大きな中国市場を利用しようとして,中国にODAとして膨大な資金を投入した。
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