世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1584

地域企業のひとつの歩み:リボリューションとしての起業

大東和武司

(関東学院大学経営学部 教授)

2019.12.23

 先週(12月16日)の本欄に拙稿「地域企業のひとつの歩み:想い・思い・念(おも)いからの起業」を掲載してもらった。今回は,その起業プロセスを通じて得た示唆を綴ってみたい。

 2011年3月一般社団法人設立による古民家事業,2015年5月企業組合設立による農業事業,さらに2015年7月株式会社設立による酒事業またカフェ事業などの起業にかかわったのは,山口の山あいの錦町に生まれた松浦奈津子さんである。「生まれ育った風景が消えていく」ことへの想い,すべての起業はそこから出発した。

 「古民家」事業は,昔ながらのしっくいの壁で爽やかな風がわたる縁側のある家に中学まで住んでいたことが大きいだろうし,田楽米(でんがくまい)事業には山あいの田園風景が寄与しているだろう。子ども時代に眺めた風景には,山川だけでなく,その地での人間模様もあるだろう。古民家再生にはもちろん所有者や購入・利用希望者なども必要であるが,大工・設計士などの建築専門家の力も欠かすことができない。さまざまな人びとを網の目のようにつなぐハブ機能の構築には昔の村落共同体的人間関係が反映しているかもしれない。良い思い出として,残像のように折々に浮かんでくるのだろう。

 「古民家」事業が概して地域空間外から内へと人の移動を促すものであるとすれば,「田楽米」事業は,地域空間外の人の活用,あるいは地域空間内・外の人びとの交流によって成り立つものである。地域空間内の労働力が減少し,コメ生産の担い手が極めて限られている状況を受け,地域空間外の人を米の生産過程に巻き込む工夫をした。昔,田植え,稲刈りは,コメ農家が互いに労働力を提供しあう相互扶助によって成り立っていた。それをイベント化させ,都市圏ないし都市圏近郊の学生・賛同者など老若男女を集め,彼ら彼女らが会費を払ってまでもやってきて,楽しく田植え,稲刈り,雑草取りを行った。苦はなく楽をともにする人手確保だった。これを例年化させることによって,地域空間内・外の人びとの交流も進み,信頼関係も育まれていった。

 他方で,コメ生産を事業化し,採算がとれるようにするためには,ブランド化が必要であった。そのための有機農法の採用,また販路としての都市圏の確保は重要であった。取引は,シルクロードの遠隔地間交易を言うまでもなく,古くから交換比率の違いを活用している。地域空間内で販売しても高くは売れない,地域空間外,とりわけ東京などの都市圏で販売すれば,高く売れる可能性がある。環境問題,食品の安全問題などを感受している消費者が多い地域空間で,それを反映させた商品を売れば,一定の需要が確保され,事業としても成立する。そのための信頼確保手段としての有機農法の採用,「田楽米」ブランドであった。

 「夢雀(むじゃく)」事業は,伊勢神宮神田(しんでん)の米「イセヒカリ」という歴史性(物語り),「ライスワイン」コンセプトにもとづく長期熟成型純米大吟醸酒というヴィンテージ型日本酒,さらにドバイ・アルマーニホテルでイスラム圏の酒税関係もあるが約60万円,香港で20万円など海外市場での高評価,またクラウドファンディングなどを活用した高価格帯販売で順調な推移をみせている。いわば地域空間外,それも世界をも俯瞰した戦略であり,経済価値,希少性,模倣困難性などブランド価値を高め,「ヴィンテージ日本酒」市場の確立しようとしている。年々プレミアムが付き,ワインのような資産としての所有の動きもみられるようになっている。

 株式会社Archisは,夢雀事業にとどまらず,インバウンドともかかわるカフェ事業,また国際的視点での新規事業の構想などと,まだまだ新事業は続いている。それを可能にさせているのは,一言でいえば松浦奈津子さんの「人柄」であろう。明るく,笑顔で,自然に周りの人びとを巻き込む力が強い。「モンペッコ」を開発された水谷由美子先生,古民家事業からのつながりの株式会社Archis原亜紀夫副社長,堀江酒場の堀江計全杜氏,中国でのG-SHOCK高級モデル販売での夢雀とのコラボが縁で小学生向けの発明教室で地方を巡っているG-SHOCK開発者の伊部菊雄氏なども,松浦さんに巻き込まれたのかもしれない。逆に松浦さんが巻き込まれているのかもしれない。それぞれの出会いからの触発がそれぞれの構想を生んで,活性している。

 Revolutionは,「渦巻きとかころころ回転する動き」に「再び」がついている。忘れされたもの,あるいは忘れ去られようとしたものも含んで,もう一度巻き貝のように渦巻きを描きつつ時間を進めていくという意味ともとれる。古民家事業はRenovation(修築),田楽米事業は労働と販路のReformation(革新・改新)ないしReconstruction(再構成),夢雀事業は熟成酒ヴィンテージ型への日本酒のRedefinition(再定義)である。それぞれの事業において,すべてを忘れたり捨てたりするのではなく,後退しているように見えがちな「古民家」,「米作」,「清酒」のなかの「家」,「米」,「麹」の意味を再認識し,まさに螺旋のようにさまざまの人びとを巻き込み,また巻き込まれながら事業を進展させている。革命(Revolution)力といってもよい。そんな人びとが起業家に向いているのかもしれない。

[主な引用・参考文献]
  • 『日本経済新聞』2014年10月12日付,2016年7月20日付,同年8月23日付,2017年5月11日付,2018年2月14日付,2019年1月6日付ほか参照。
  • インタビュー:松浦奈津子氏・原亜紀夫氏(2019年7月8日アーキス本社)。そのほか,松浦奈津子氏とは2015年以降山口県立大学などで適時面談。
  • 詳細は,拙稿「地域企業のひとつの進化プロセス(仮題)」広島市立大学国際ビジネス研究フォーラム(編著)『国際ビジネスの現実と地平(仮題)』2020年3月刊行所収を参照されたい。

関連記事

大東和武司

国内

日本

最新のコラム