世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1501
世界経済評論IMPACT No.1501

世界日本人起業家ネットワークの新潮流WAOJE

佐脇英志

(都留文科大学 教授)

2019.10.07

 最近,メディア等でも取り上げられるようになってきたWAOJE(World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs)は,海外を拠点に活躍する日本人起業家のネットワークである。

 WAOJEは,2004年に香港で筒井修氏を中心に立ち上げられた和僑会を母体とし,2017年に世界展開を目指す組織「WAOJE」に生まれ変わったものである。現在日本9拠点(京都,北海道,名古屋,大阪,岡山,広島,東京,沖縄,福岡),南米サンパウロ,豪州ゴールドコースト,北米ハワイ,中国3拠点(大連,北京,上海),東南アジア7拠点(クアラルンプール,シンガポール,セブ,バンコク,プノンペン,マニラ,ヤンゴン)合計22拠点に広がっている。さらに,北米,南米,欧州,中東に積極的に展開を始めている。

 世界各都市に根を張り頑張っている日本人起業家が集い,世界規模のネットワークに成長し,都市や国を越えてつながることで,新たなビジネスチャンスを生み出し,さらに日本にとっても重要なビジネスインフラとなることを目指している。

 2017年3月のWAOJE発足から,5月には第4回WAOJE ASEAN大会が開催され世界の日本人起業家150人がクアラルンプールに集合し,マハティール首相が登壇した。同8月には,タイバンコクで第5回WAOJE 世界大会が開催され,元Line社長で現C Chanelを起業した森川亮社長が登壇し,500〜600人の日本人起業家が集まった。翌2018年9月には,カンボジア,プノンペンにて,第6回WAOJE世界大会が開催され,世耕経済産業大臣の応援のビデオメッセージが流れた。ここには,中南米,中近東,東欧,アフリカ,インドなどからも集まり日本人起業家が500〜600人集結した。

 今年2019年5月26〜27日,WAOJE Leaders’ Summit in Kyoto 2019において,京都信用金庫本店に世界中からWAOJE主要メンバーが集まった後,急速な細胞増殖の動きが広まっている。

 まずは,欧州から海外日本人起業家の動きが始まった。8月9〜10日ベルリン,11日ケンブリッジ,12日ロンドンとリクルートイベントが開催され,日本やアジアの日本人起業家も駆け付けた。続いて14日には,ニューヨークマンハッタンにて,ニューヨーク支部立ち上げのために,世界から日本人起業家が集まった。同22日には,WAOJEヤンゴンが,ミャンマー起業家組織SEDAと共催でビジネス交流会を開催した。ミャンマー人70名,日本人70名,合計140名が集結し,ヤンゴン管区の大臣も来場された。同25日には,台湾にて,日本人起業家の集まりが開催され,東南アジアから日本人起業家が駆け付けた。

 9月5〜9日には,3月に発足したWAOJE Hawaiiキックオフイベントが開催された。翌10日カンボジアプノンペンにて,カンボジア人3人,日本人3人,ベトナム人1人の合計7人の起業家によるピッチコンテストが行なわれ,東南アジア・日本からも起業家が集まった。同19日には,タイのバンコクのチャオプラヤ川船上で異業種交流会が開催され,タイ国内だけでなく,日本,マレーシア,シンガポール,オーストラリアなど,世界各国から約70名の日本人起業家が集まった。3人の若手日本人起業家,西良介氏,中村勝裕氏,飯田直樹氏とモデレーター阿部俊之氏によるパネルディスカッションが行なわれた。

 同21日には,シンガポールイベントが開催され,40人の起業家が集まった。カンボジアで「キリロム工科大学」を設立し学長を務める猪塚武WAOJE代表理事が,「Topが次々に変わる属人的でないサステナブルな組織を目指す」とWAOJEの将来を語った。シンガポールで貿易会社を起業した菱沼一郎氏は,「一杯の水を持ち寄り,一杯の水を持ち帰る仲間でありたい」と語った。また,オーストラリアゴールドコーストで弁護士業を営むハーディング裕子大会委員長から,今年11月6〜8日,年に1回のWAOJE最大のイベント「WAOJE Global Venture Forum 2019 in Gold Coast」(WAOJE世界大会)についての説明が有った。大事業家渋沢栄一氏のひ孫でコモンズ投信株式会社創業会長の渋沢健氏を迎え,2017年バンコク,2018年プノンペンに続く大会として大きな飛躍を目指す。このように,この数か月で,世界日本人起業家ネットワークであるWAOJEは急激に変貌を遂げている。猪塚代表理事によれば,3月までに現22拠点に加え,6拠点の拡大を目指すとのことである。

 失われた20年とも言われる日本経済の停滞の中で,日本企業は3つの問題を抱える。①「国際競争での敗退」:世界時価総額トップ50において,日本企業が次々に退出しトヨタ1社を残すのみとなった。②「起業家精神減退(新事業を生み出せない)」:「Global Report 2017/2018」によると,日本の総合起業活動指数(TEA)は,調査参加国54ヵ国中50位の4.7%という極めて低い水準,かつ,ユニコーン企業が1社しかない。③「クリエティビティ(イノベーション)」:かつてのウォークマン,ビデオ,インクジェットといった世界を席巻する製品は見なくなった。

 この3つの問題点を超越しているのが,「海外でビジネスを起こして活躍する日本人起業家」である。彼らは不慣れな厳しい外地の環境の中で,イノベーションを巻き起こし新しいビジネスを立ち上げている。まさに,今の日本企業,ビジネスマンに対する最高のロールモデルである。彼らは,世界各地で次々に立ち上がり,名乗りを上げ,急激に組織化し,新しい時代を作ろうとしている。今その火付け役になっているのが,WAOJEなのである。この急速に拡大している日本人起業家のネットワークは,ダイナミックな変化を起こそうとしている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1501.html)

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