世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ポストグローバル化の道程
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2019.09.09
アメリカ資本主義の黄金時代
アメリカは,1940年から1980年までアメリカ資本主義経済の黄金時代と言われるような繁栄をした。それは19世紀末の大不況,二度の世界戦争を経験し,アメリカは「新しい丘の上の国」を建設すべく,憲法に掲げた「国防力,通商産業力,国民の福祉」を増進するため,政治家,政府官僚,企業家,労働者,国民大衆が一体になって新しい資本主義国家,「高度大衆消費社会」を築きあげた。その国家の枠組みとは,国防力,イノベーションを促進する国家的な仕組み,通商産業力の増強,経済活動の中で起こってくる詐欺的行為を判別し,排除する制御装置,証券取引管理法(ペコラ委員会レポート判例),公民権活動,拮抗力としての消費者運動,労働組合活動などがある。国民大衆が豊かになれば国の経済は発展するということをアメリカは証明した。
こうしたアメリカ経済の発展には,国際的な枠組みとして「ブレトンウッズ体制」があった。1944年,国民国家の経済成長を促進し,貧困削減をし,破壊的な貿易戦争の回避を狙って,アメリカのニューハンプシャーのブレトンウッズで会議がもたれた。それは「国際貿易と長期投資を促進する最善の方法は,政府が国内経済を管理できるようにすること」だという信念に基づいていた。そして「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」により,各国は国内の社会・政治的取引を脅かさない程度に市場を開放することを合意した。つまり「国家主権」,「民主主義」,「グローバル化」の三つを同時に達成することはできないという「トリレンマの原理」があるが,ブレトンウッズの精神は,国家主権と民主主義を堅持し,グローバル化を少し制限するという基本的な考えであった。
1980年以降のハイパー・グローバル化
ところがアメリカで1971年にあるグループが「このままではアメリカは社会主義化して,経済は衰退してしまう」という檄を飛ばした。それは後に最高裁の長官を務めたルイス・パウエルの「メモランダム」であった。アメリカ商工会議所宛に出されたものだが,多くの資本家がこれに動かされ,ミルトン・フリードマンの「新自由主義」のもとに,グローバル化の道を走り始めた。1981年大統領になったレーガンがアメリカの資本主義経済の制御装置の枠組みなどの破壊活動を実行した。企業での労働者の首切りをしやすくし,企業の合併・リストラクチュアに対する規制を緩め,また株式証券市場の詐欺的行為を禁止する証券法を改正し,ペコラ委員会レポート判例の規制緩和をし,金融資本がグローバルに動き,投資しやすいようにした。労働組合活動にも制限を設け,アメリカ経済活動の制御装置を崩し,経済社会の「拮抗力」を壊してしまった。輸出企業や投資家はワシントンでのロビー活動に金を使い,政府を丸め込んで,証券取引管理法を改正し,資本の移動規制を緩和し,独禁法を緩めるなどして,グローバル化を推し進めた。そして逆に最近のIMFなどの国際ルールは,純然たる近隣窮乏化ではないものまで管理しようとしている。国家の農業補助金,産業政策,金融緩和政策もコントロールしている。
1995年に設立されたWTOもグローバル化を推し進めるもので,WTOは各国が国際競争から自国産業を守り育成することを難しくしてしまい,さらにそれまでの国際貿易政策がタッチしてこなかった農業,サービス,知的所有権,産業政策,医療,公衆衛生などの領域にも規制するようになり,国民国家としての経済政策を実施することに大きな制限をかけている。
金融領域での変化は,各国が資本規制から資本移動自由化の政策にシフトさせた。アメリカ,国際通貨基金(IMF),経済協力開発機構(OECD)の働きかけを受けた国は,緊縮財政を強いられ,また短期資金は高い配当を求めて,国境を越えて動くようになり,タイなどの多くの国がそのために経済危機に陥った。1980年からのグローバル化は,ブレトンウッズの精神から逸脱してきた。
アメリカの後押しで中国が安い労賃で「世界の工場」になったので,アメリカはモノを造るより外国の商品を買って消費することに走り,アメリカ産業は空洞化してしまい,技術開発力も低下していった。この中国の「世界の工場」は世界の賃金を急速に低下させた。その結果,ピケティの調査の通り,アメリカの所得の格差が1981年から急速に悪化していきている。国民大衆は貧困化し,そのためにアメリカ国民の購買力が低下し,アメリカ経済は衰退してきた。こうしてアメリカは格差が広がり,民主主義が弱体化されていった。商品を買えない低所得の国民大衆に金を貸し付けて住宅,自動車などの商品を買わすという「架空経済」を創り上げた。詐欺的な商品であるサブプライムローン現象を起こし,それがリーマンショックになった。こうしてブレトンウッズの精神もグローバル化の行き過ぎで消されてしまった。
日本も2001年からの小泉政権がアメリカのグローバル化の尻馬に乗り,同じ手口で日本経済の骨格を破壊してしまった。国家のシンクタンクとしての経済企画庁をアメリカにより解体させられてしまった。非正規社員制度を導入し,労働者の就業を不安定化させ,賃金を引き下げていった。何でも民営化で産業構造を破壊していった。それ以来日本のGDPは伸びなくなってしまい,世界でもかつてなかったような深刻なデフレに陥入り,現在も抜け出せていない。
日本はこれまで,世界の流れの中でどう竿さすか,最近はアメリカの指示にたいしてどう対応するかで動いてきたが,これからは日本の国を守り,更に発展させていくにはどうしていくべきかを自分の頭で考え,自分の責任で行動しなければならない。日本も自分で新しい波を起こす必要がある。
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