世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1471
世界経済評論IMPACT No.1471

トランプは対中経済戦争の“戦士”だ!

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2019.09.09

 トランプ政権の中国との貿易戦争は9月1日に新たな段階に入り,約1100億ドルの中国の輸入品に対し15%の関税が発効した。これは米国の消費財の価格も上昇することを意味し,平均的米国家庭に年間1,000ドルの負担になる。

 トランプ政権が経済を押し上げる最大の手段は中国貿易だが,香港と台湾の安全保障上の懸念で難しくなった。

 そのためThe Hillが9月1日に配信した“Why the trade war will hurt Trump”によれば,“トランプ氏は彼の成果として低い失業率と消費支出の増加等を指摘して来た。だが利回の反転や株式市場史上最大の損失等により,それは信用されなくなる”。

 このままではトランプ再選は難しくなると主張。

 ワシントン・ポストが8月30日に配信した“Trump’s trade war could get him kicked out of office”では,“経済は今年の第2四半期に2%成長した。これは第1四半期で見た3.1%の成長から急激に減少しており,それはトランプ減税等による景気刺激を対中貿易戦争が打ち消した為と分析。同じ打撃は中国も受けているが,習近平は選挙を気にする必要はない”。

 そのためトランプ氏は,2020年の選挙で落選するか,あるいは対中経済戦争を和解するしかないと主張。

 なおBloombergが8月26日に配信した“Want a U.S. Recession? Try Trump’s China Divestment Plan”によれば,米企業は中国大陸に既に2000億ドルもの投資を行い,これはリーマン危機で米国金融機関が失った資産が約800億ドルと比較し巨大過ぎる。そのため関税等でトランプ政権が対中投資を引き揚げさせようとしても簡単ではない”。

 こうしてみるとトランプ氏には不利な状況のようにも見える。

 だがWSJが8月25日に配信した“Trump Gambles That China Trade War Will Pay Off in 2020”の中でバノン氏は“2016年と同様,中国強硬姿勢が大統領選挙勝利に役立つ”と主張している。

 しかし同記事では“製造業の雇用はこの1年で鈍化した。消費者に対する関税の影響は,平均年間1,000ドルと予測される”ことも指摘。「この痛みは愛国的義務と考えるトランプ支持者は何人いるか?」と民主党幹部の一人は語った。

 だが“民主党員は貿易より所得不平等等の問題を重視し,トランプ氏の中国に対する姿勢に同意している”とも同記事は指摘。

 そこで“トランプ氏の再選チームは,貿易戦争を米国の雇用と労働者のための戦いにしようとしている”という。

 Breitbartは8月29日に配信した“Jerome Powell’s Never-Ending War on the Trump Economy Gives China the Upper Hand”の中で“パウエルは,金利目標を昨年4回引き上げた。それは人民元を弱くし,中国は米国へ安い商品をあふれさせた”と指摘。パウエル議長を“金融エリートのインサイダー”(補足:中国を含むグローバルなビジネスで儲ける人の味方)と批判している。

 WSJ前掲記事でも“民主党はウォール街の金持ちのために戦いたいのか?”というトランプ氏のアドバイザーの言葉を引用。製造業が中国との摩擦のため減速しても,トランプ氏は2016年以上に,そのような産業が多く民主党の地盤だった州に支持を広げられると考えているという。

 そして同記事は,バノン氏の“これは世界経済の方向性を設定する戦いだ”という言葉で結ばれている。

 この戦いに勝つには,仕掛けが必要だろう。

 Politicoが8月29日に配信した“Republicans grow anxious about the Trump economy”によれば,“(補足:対中摩擦で不況になりつつある経済を活性化する)トランプの減税案(補足:給与減税やキャピタルゲイン減税)に関し共和党は冷淡である。代わりに日本と英国との新たな貿易協定の締結等を推進する努力を促している”。

 私見だが給与減税や何らかの金融税制改革は米国の経済構造の改善のため不可欠と思う。何れにしても“世界経済の方向性を設定する”戦いで勝者側に付くため,日本は一刻も早く日米FTAを妥結するべきだろう。

 そしてThe Streetが8月26日に配信した“As China Digs in on Trade War, Trump Might Claim to Be Fighter Instead of Winner”では,トランプ氏が2018年3月の大型減税で株式市場を沸騰させ,初めて支持率が40%を超えたが,それが今は対中摩擦が企業の将来計画を混乱させ経済が減速して来たため,支持率等で苦しい状況に陥っていることを指摘。そして大手証券会社の専門家ミルズ氏の言葉を引用している。

 “多くの投資家は,トランプが経済成長と株式市場を彼の成功の指標と考えているため,再選の妨げになった場合,中国貿易戦争を直ぐ終わらせると考えている。だが,それは希望的観測だ。「中国はトランプの望む変化を起こそうとしない」。貿易関係を超えて経済的優位性,政治的影響力,軍事的優位性にまで及ぶ世界的覇権をめぐる戦いは長期に亘る”。

 そして“トランプ氏の再選メッセージは,「あなたが私を好きでなくても,他の人に投票すると,あなたは仕事を失い,彼は中国にそれを与えるだろう」になる”と述べている。

 更に“貿易紛争で勝利がなければ,トランプは単に戦い続けることが選挙勝利戦略と考えるかもしれない。2020年大統領選挙のために自分自身を「戦士」としてブランドするのでは”ともミルズ氏は予測している。

 トランプ氏は中華人民共和国との世界秩序を賭けた闘いの「戦士」なのである。彼を応援して闘いに勝たなければ,日本は自由も民族精神も許されない国になってしまうだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1471.html)

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