世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1431

ポピュリズムとデジタル経済の下での海外直接投資

鈴木康二

(元立命館アジア太平洋大学 教授)

2019.07.29

 ポピュリズムが世界を覆っている。日本企業は大衆迎合政治が蔓延する世界で日本以外の国で外資系企業として生きなくてはならない。職を失うかもしれないとの不安がポピュリズム政治を生んでいる。世界における中国製品の台頭とデジタル経済の進展が失業への不安と恐怖を招いている。中国製品の輸入が増えれば,自国生産を止め企業は廃業するか価格競争力のある外国生産に切り替えるから,失業が増える。AIに典型的なICTが,ビジネスと消費生活に全面的に導入されれば,労働者は大幅に不要になり,消費者データはビックデータとしてAIに取り込まれ,国を越えた企業の通販サービスやデータ・サービスを消費者は購入する。国を越えた企業は,タックスヘブンを含めた外国に所得はあるとして,消費者の住む国での課税を免れる。消費国の税収は減り社会保障・公共インフラ水準は悪化する。

 消費者は無料検索サービスやSNSのユーザーとして便益を得る。そのサービス供給者は無料で得た顧客データをビックデータとしてAI分析にかけターゲティング広告に利用し広告料を得る。ICTを利用し個人の遊休資産や余った労働力を個人間で貸借したり提供・売買するシェアリング・エコノミーは,物々交換の形で行えば所得は生じないから課税できない。デジタル経済でシェアリング・エコノミーが増えれば税収が減り公共サービスは低下する。ICTを使い単発・不定期な仕事を受ける非正規労働は全世界で増えている。ウーバーの配車サービスで働く個人は,余った自分の車を使い余った時間に余った労働をするシェアリング・エコノミーなのだから何が悪いと言う。働き方改革にはなるが,事故の際の労災問題や所得把握の困難さでの税収減を生む。手間暇がかかる所得把握と社会保障や公共インフラ整備に不熱心な途上国政府はシェアリング・エコノミーを歓迎する。

 AI活用は生産性を大幅に高める。土木や農作業そして流通・飲食サービスの現場で人手不足が解消される。工場でAIを使い人と協力して作業する協働ロボットが増える。医療事務員,行政職員,スーパー店員,工場事務員,ビル清掃員はAIやロボットに代替され易いし,将来は銀行員や税理士もAIに代替される。税理士なしでも会計帳簿の粉飾や不正はAIが見つけてくれ,AIに賄賂は利かないから,賄賂横行の途上国でのAI活用は税収増になる。銀行インフラが未整備な途上国ではビットコインの方が使い勝手が良い。

 中国製品の台頭とデジタル・エコノミーの進展は,世界的な所得格差を生む。世界中の人が1988年からの20年間でどれだけ所得累積があったかを示すエレファント・カーブは,中国人中間層の極端な所得蓄積増(象の背中の肩部分)と欧米先進国中間層の累積所得の無さ(下がった鼻の一番低い部分)を示している。またアジアと欧米の富裕層の大幅な所得蓄積増(象の鼻の先)と世界中の貧民の所得累積増(象の尻尾)をも示している。世界中の富裕層は,デジタル経済の起業ブームでキャピタルゲインをタックスヘブンに課税逃れさせ,途上国の政治家と企業家は賄賂で得た所得と支払わないで済んだ資金を,タックスヘブンに隠せる。欧米日の先進国中間層は,全世界への輸出で経済発展する中国に安定的な経済成長の機会を奪われ,マイナス成長ないし長期低成長の経済の下で,途上国に移転した工場の生産コストと競争するため,給与水準の引き下げを受け入れざるを得ない。今後AI技術者はより高報酬となりICTが使いこなせない人との所得格差は極端に拡大する。

 欧米日先進国は代議制民主主義国家だから,選挙で勝つには貧しく薄くなった中間層にアピールするポピュリズム政治が流行る。途上国や民主集中制を採る中国そして権威主義的な政府は,経済的に豊かになれば国民は政府を支持するとして,政府が過剰に企業を支援して輸出国になる産業政策を採り,先進国の知的財産権を盗んで国際競争力をつけることを黙認する。ナショナリズムは途上国と韓国の政治家が使うポピュリズムのための用語だ。途上国政府は,過剰過ぎる投資優遇策で外資を誘致した後,おっとり刀でナショナリズムを言い出し,外資系企業の資本・人の現地化,現地調達増そして技術移転を言う。外資系企業には選挙権がない。現地国民の選挙用人気取りのポピュリズムによりナショナリズムが叫ばれる。デジタル経済とPPPによる公共サービスの代替は,ナショナリズムによる法的ないし実質的なサービス業への外資参入規制があれば,資本も技術もない途上国の企業家と労働者にとって,濡れ手に粟だ。

 外資系企業は,利他主義の経営で現地国民と現地市民社会にアピールすればよい。国際競争力のあるナショナリズムを主張する。国際競争力がある現地人材と現地財サービスの調達優先を標榜する。現地人材と現地品の水準向上をサポートし雇用確保・雇用増を図るとして国際的な技術移転の対価支払いを言う。現地資本家の利益ではなく現地国民全体の利益だとして,資本の現地化は現地資本市場に上場して行えばよい。

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