世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1430

亥年現象は憲法改正を不可能にしたか?

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2019.07.29

 選挙分析の世界で亥年現象という言葉がある。12年に一度巡って来る亥年は参議院選挙の投票率が低下するというものである。その原因は春に統一地方選挙が行われるため,国政選挙の実働部隊でもある地方議員が,自分の選挙が終わった直後なので,参議院選挙のために積極的に動かないことにある。これは多くの地方議員を抱える自民党に,最も大きな影響が出る。

 この亥年現象は無党派層には関係のないもののように思われるかも知れない。だが特に無党派層が増加し始めた80年代くらいから,無党派層の投票率にも大きな影響が出るようになった。これは一つには選挙が過熱すれば,無党派層も投票に行きたくなるという心理的効果がある。もう一つには80年代型の無党派層は,左翼政党に愛想が尽きて離反し,相対的な自民党支持だったという問題も小さくない。

 だが21世紀に入ってから,無党派層が反自民寄りになったという人もいる。その理由は分からないが,一つには小泉構造改革による貧富の差の拡大等があったのかも知れない。

 そのせいか2007年の参議院選挙で一人区だけを見ても,民主党に無党派層の票を半分近くも取られ,自民党は大敗北を喫した。

 そして数年後に民主党政権が出来た。だが見事に自滅してくれた。

 それを見ていた若い世代が,再び有力な自民党系無党派層になった。2019年7月時点で,50代以上の無党派層の自民党支持率は10%台半ばなものの,40歳未満の無党派層は30%近く自民党を支持している。

 そのためか2013年の参議院選挙では一人区だけ見ても,民主党系は20%未満しか無党派層の票が取れず,それに対し自民党は4割以上も無党派層の票を取り圧勝。この年,自民党と公明党は合計77議席。民主党は17議席で,共産,社民等と合わせた反自民勢力は29議席だった。

 しかし2016年,当時の野党が32ある一人区で統一候補を立てる戦略に出て,その結果として無党派層の半分以上の票を取った。自民党は3分の1程度だった。

 それでも野党が取った議席は11。自民党は21。しかも野党統一候補の内6人が5%未満の僅差で自民党に勝っただけだった。

 このように野党が特に共闘した一人区で意外に脆弱だったのは,やはり投票率の影響ではないか? 2013年には52%程度だった投票率が,2016年には54%と微増。特に民主党政権の失敗を目の当たりにした10代の若者も,この年から選挙権を得たことは,小さいことではなかった。

 但し2010年までの日本では,亥年以外は60%くらいの人が投票に来ていた。いかに民主党政権の失敗に失望した若者の自民党支持的な無党派層が多いかを,垣間見ることが出来る。

 今年は亥年だった。投票率は48%と非常に低いものであった。そのため自民党の議席は伸び悩み,2016年に公明や維新と3党で得た憲法改正に必要な3分の2議席に4議席足りない結果となった。

 それでも自民党と公明党は6年前と6議席足りなくても3年前よりは1議席多い71議席を得ている。維新の党は6年前より2議席増やして10議席。因みに反自民党系は約34議席。

 これは6年前と比較すると自民が6議席前後を反自民勢力に奪われたことを意味する。やはり低得票率による無党派層の投票参加の低下が原因ではないか? いま日本人の約半分が無党派層だと言われているが,今回の選挙で投票に来た無党派層の割合は全体の15%程度だった。

 だが,やはり32ある一人区で野党共闘が行われた結果,無党派層の約6割を野党が取ったものの,野党が取ることの出来た一人区の議席は3年前より一人少ない10議席。そのうちの四人が,やはり5%程度の僅差で自民党候補に勝っている。

 比例区を見ると自民党は全体の約3分の1の支持を得て19議席。立憲民主は15%の支持で8議席。国民民主は7%の支持で3議席。維新の党は約1割の支持で5議席,共産党は9%の支持で4議席。以上の政党の殆どが支持者の8割に比例区で投票させることが出来ているのに対し,国民民主だけが7割程度なのである。

 どうやら反自民党勢力が,この状況でも一人区等で脆弱なのは,国民民主党の支持基盤が脆弱なためとも思われる。

 そして,もし今年が亥年ではなく投票率が高かったとしたら,自民党系無党派の票で,もう少し自民党が有利に闘えた可能性も低くない。改憲に必要な議席に足りなくなった4議席と,ちょうど同じ一人区の4議席をひっくり返すことは可能だったかも知れないし,複数区で次点だった自民党系の候補者もいる。比例区も,より多い議席を得ることが出来たかも知れない。

 このような自民党の底力を見せ付けることで,今年ないし3年前に一人区で5%前後の僅差で自民党候補に勝った野党系の候補者や,野党の中で埋没気味で他の政党より支持基盤の脆弱な国民民主党に,例えば次の選挙で有力な対抗馬を立てると脅すような形で揺さぶりを掛け,まず一般的政策で共闘を模索し,その後に憲法論議でも協力を求める。場合によっては自民党中心の連立に入れて副大臣や政務官にしても良い。

 こうすれば憲法改正議論を何とかして軌道に乗せられるのではないか?

関連記事

吉川圭一

国内

日本

最新のコラム