世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1403
世界経済評論IMPACT No.1403

覇権の推移に学ぶ日本の戦略

三輪晴治

((株)エアノス・ジャパン 代表取締役)

2019.07.08

 日本は,国としては,もともとアメリカを倒して自分が世界の覇権国の座に着くという考えは全くなかったが,アメリカの力を借りて,産業を興し,経済の奇跡的な発展をしたものだから,これをアメリカが脅威に感じ叩いてしまった。

覇権国の推移から何が読み取れるか

 第一に,覇権国になるには,イノベーションによる産業革命を起こし,多くの産業を発展させることである。そこで国民大衆が職場を得て,その所得で生産された商品を買い生活を豊かにする。こうして世界経済の発展をリードする。これが覇権国である。

 第二に,覇権国は,先端技術で主導権を握り,イノベーションで産業を興す力を持ち,新しい「社会的生産関係諸力」を創る国であり,新しい社会のルールを創る。覇権国になるのは軍事力やGDPの大きさではない。

 第三に,しかし覇権国がグローバル化に走ると,「底辺への競争」が起こり,賃金も下がり,生産性向上投資も起こらず,国の税収も減少し,国は疲弊する。新興国が発展して覇権の座を侵しそうになるとそれを叩く。しかし国力が低下し覇権争いに敗れ,覇権国の座を追われることになる。グローバル化ですべての国が「輸出依存」で競争するとやがて世界経済は破たんする。日本にとってTPPは解ではない。

覇権国の叩きをかわすドイツの知恵

 ドイツの歴史は隣国,覇権国との数々の戦争の歴史であり,戦争に負けて何度もドイツはその財産を収奪された。国家主義を歴史的に貫いているがドイツであるが,ドイツ国民は生きるために国の産業力,経済力をつけてきた。国内産業を強化し,資産を蓄積する。しかも他国から略奪されないように財産を隠し持つ知恵を持っている。企業の本当の強みをバランスシートに載せない。「じゃがいもは床下に隠せ」という言葉がドイツでは生きている。

 いろいろの分野で世界市場のシェアー70%から80%を持つグローバルニッチと呼ばれる企業が沢山存在する。年間売り上げは2000億円から4000億円ぐらいの中規模で,業績の良い企業が,世界には2000社以上ある。その3分の2以上がドイツの企業である。ドイツの企業は「隠れたグローバルチャンピオン企業」と呼ばれ,意図的に外に対して宣伝はしない。だから叩かれることはない。

 しかもドイツはEUの中にいて,こうした隠れたグローバルチャンピオン企業を通じて世界に輸出しているが,イタリア,ギリシャのような劣等生を抱えていることによりユーロの為替を低く抑えて,その安いユーロで世界中に輸出をし,膨大な利益を上げている。もしマルクを使えば,マルク高で輸出が不利になるのだが。現在でもドイツの経常黒字は世界最大である。しかしドイツはこのトリックをいつまでも続けることはできない。EUの問題はそこにある。

米中覇権争いの新冷戦の中で日本はどうすればよいか

アメリカ叩きに対する中国の反撃

 今覇権国アメリカもグローバル化の行き過ぎで経済は疲弊してきている。

 そのためにアメリカは中国だけではなく,その他の同盟国をも叩いている。中国はアメリカに張り合うまでの実力はまだないが,トランプの中国の叩き方によっては,中国はロシアやユーラシア諸国も引き入れて反撃してくるかもしれない。こうなると米中新冷戦は長引き,日本にも大きな影響を及ぼすことになる。そのためには,日本の生き残りを考えなければならない。

グローバル化の行き過ぎの是正

 アメリカもグローバルの行き過ぎを是正し,経済を復興してもらわなければならない。トランプはそれをやろうとしている。日本もグローバル化の行き過ぎを是正し,輸出依存ではなく,イノベーションで国内産業を再生し,内需の規模を拡大しなければならない。幸か不幸か,アメリカは,今の日本がアメリカの覇権国の座を侵すような危険性はないと見ている。

痩せた日本経済の体力の回復

 1990年以来のデフレで日本経済は疲弊し,内需が異常に小さくなっている。500兆円のGDPをまず700兆円の規模にしなければならない。インフラの強靭化を財政投資で進めることである。

イノベーション展開運動

 第二次生産向上運動として再度新しい生産性向上運動を展開しなければならない。日本の製造業をナノテクノロジーとAIで刷新する。産業は先端ナノマテリアルなどの産業を促進し,日本は世界の産業のための「縁の下の力持ち」というポジションにする。しかしそれをあまり外に向けて宣伝しない。ドイツのようにジャガイモを床の下に隠すように,ローキーの態度をとることだ。

比較優位生産での国際分業

 グローバル化で世界市場で同じ商品で競い合うのではなく,他国の造らないものを作り,国際分業で,交易しあう。同じ衣装ではなく,それぞれの歴史,文化,習慣を持った民族衣装を着けた国の集まり,国際分業の仕組みを創る。自動車でもそれぞれの特長を生かしたEV,ハイブリッド車,水素燃料車があってよいし,地域に合った新しいモビリティ社会を創造することである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1403.html)

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