世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1374
世界経済評論IMPACT No.1374

トランプとサンダースは協力するか?:欧州議会選挙に見る世界的政界再編

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2019.06.03

 5月26日に行われた欧州議会選挙を分析することによって,これからの世界の政界再編に関して考えてみたい。まずWSJが5月27日に配信した“European Elections Deepen Divisions in National Capitals”に基づいて主要国の投票率を見てみよう。

 まずイタリアでは極右(移民反対,国家主権重視派)政党が直近の国政選挙の倍の34%もの票を取っている。左翼政党が反対に票を半減させて17%程度。中道左派は5%伸ばして22%。中道右派は5%低下して9%。

 フランスではルペン氏の極右政党が2%伸ばして23%。マクロン大統領の中道派が2%低下させて22%。中道右派が,やはり半減以下になって約8%。

 ドイツでは保守同盟が5%低下させて28%。連立する社民党も5%低下させて16%。だが私に取って残念なことに極右政党は2%低下させて11%程度だった。

 このように事前の予想と違って極右政党が苦戦したのは,環境保護政党の躍進が原因と思われる。フランスでは倍増して14%近く,ドイツでは3倍近い22%程度の票を取った。

 英国でも極右政党の一種と言うべきBrexit党が約30%。反Brexit党が約20%。労働党が15%未満で保守党は10%も取れなかった。その中で環境保護政党は約12%を獲得し存在感を示した。

 このような結果になった原因は,20年ぶりに高かった投票率にあるのではないかと思われる。つまり自分達に影響の大きい環境問題に敏感な若い世代が大量に投票に来て,彼らが信用できない既成政党や極右政党以外の政党に投票したためではないか?

 しかし極右勢力の選挙を応援したと言われる元トランプ大統領戦略顧問のバノン氏は,それでもドイツ以外の欧州有力国で極右政党が躍進できたことは勝利であり,これらの党を糾合して,(欧州議会のある)ブリュッセルを激戦地に変えてやると豪語したと,real clear politics が5月28日に配信した“"Supergroup" Of Nationalists Have Acheived "Critical Mass" In European Parliament, Can Start To Block Things”は報じている。そしてネットの発達した現代は,説得の時代ではなく動員の時代であり,ネットを駆使できた政治家が今回の選挙でも勝っている。そして自らが応援した極右政党だけではなく環境保護政党の選挙戦略も賞賛し,アメリカのサンダース直系下院議員オカシオコルテスまで引き合いに出している。

 もともと彼は格差解消等の観点から,トランプ氏とサンダースの協力を,何度も模索している。

 そしてthe nation が5月29日に配信した“What Just Happened in Europe?”によれば,ルペン氏が“広い意味の愛国主義”として環境保護政党との協力を模索していると言う。興味深いことに同記事によれば,ヒラリーのアドバイスにより欧州の中道政党が反移民の政策を取り入れて生き残ろうとしていると言う。

 つまり私見かも知れないが全世界的に既成勢力対反既成勢力(トランプやサンダース,欧州の極右政党や環境保護政党)の闘いが起こっているのである。

 そしてthe nation前掲記事にあるように,若い世代は自らの新しいニーズに合った政策を主張する政党を支持する。実際,今回の欧州の選挙で進歩派の政治家が少なからず落選している。そして二大政党制の米国では多党制が多い欧州よりも,このような新しい複雑なニーズに応えるのが難しい。

 それがバノン氏の発言と今までの彼の行動の遠因ではないか? つまり米国の二大政党制に対する何らかの改造計画である。

 例えば彼までが少しでも肯定的に引き合いに出したオカシオコルテス議員のGreen New Deal政策は,実現不可能な理想論で,そのため実現しようとしたら却って地球環境や人間の社会に重大な危険が及ぶ(それに関しては拙著『救世主トランプー“世界の終末”は起こるか?』に詳しい)。にも関わらず財界筋の一部からまでGreen New Dealに対して,不思議な期待のようなものがある理由は,Green New Dealを実現しようとすれば,今まで以上の赤字国債を発行せざるを得なくなり,そうしてマネー・サプライを増やせば,また株価を維持できると言うような思惑があるのではないかと,私は考えている。この考え方はレーニンが予言した資本主義の崩壊過程であると私は繰り返し主張して来たと思う。

 つまりGreen New Dealとは,左派の悪い部分と財界等の悪い部分とを融合させた,最悪のものでしかないのである。絶対に実行させてはいけない。

 しかし裏を返せば,このGreen New Dealにも見られるように,リベラル派と保守派とが連携できる新しい政策を立案し,二大政党の枠を乗り越える可能性は,いろいろ考えられる筈なのである。バノン氏やトランプ氏の政策が格差縮小政策であるように…。

 今回の欧州議会選挙の様子を見ても,あるいはGreen New Deal政策の中に込められたミニマム・インカム的な発想あるいは実態としての株価維持という影響から見ても,これからの特に米国では,ブッシュ二世が提唱していた金融オーナーシップ社会の考え方や,新交通システムの開発にも結びつく環境保護問題等を巡って保守派と左派の枠が超えられるかが重要になるだろう。因みに元民主党員のトランプ氏は2018年のカリフォルニアの山火事の時に,少数の仲間内で地球環境問題解決の重要性に言及したと言う。

 このような政界再編が米国を中心に世界的に成功するか?そこに人類の未来が掛かっていると言っても過言ではないだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1374.html)

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