世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1312

森林までもがコンセッションの対象になっている

本山美彦

(国際経済労働研究 所長・京都大学 名誉教授)

2019.03.18

 私が,疎開先の広島の呉近くの美しい海辺(ただし,あの恐ろしいキノコ雲に震えた記憶がある)から神戸市に引き揚げてきたのは,終戦後間もない時であった。

 省線の三宮駅で降りた時の光景はいまだに瞼に焼き付いている。南側は春日野道にいまでもある巨大な石油タンクが立っていただけで,見渡す限り荒涼たる焼け野原であった。北側の六甲山地は見るも無惨な禿げ山であった。子供心ながら「大変な所」に迷い込んでしまったと泣き叫びたかった。

 地元の市立小・中学校に在学中,当時の原口忠治郎・神戸市長が音頭を取って結成されていた神戸市海洋少年団に入り,せっせと,摩耶・六甲に苗木を運び植林した。いまでは,緑滴る摩耶・六甲を仰いで,昔の禿げ山を思い出す人は少ないだろう。

 10年近く前,雑誌『WEDGE』に次のような記事が載った(要約)。

 戦後,数多くの人が苗木を背負い,奥山まで徒歩で分け入って,未来の世代のために一所懸命植えた木々。哀しいかな,いまや放置されている。

 50歳という伐採に適した樹齢を迎えた多くの杉は,都市住民にとって花粉症を引き起こす厄介な存在でしかない。山は放置され,山に愛着のない世代に相続が進んでいる。自分の土地の境界すら分からなくなっている。手入れされずに荒れていく森林は,国民から関心をもたれないまま,外国人に大規模に売られている。これぞまさに森林の「孤独死」ではないか(「日本の森林『孤独死』寸前」,『WEDGE』2010年9月号)。

 2019年2月22日,橋本淳司のルポによれば,放置された森林は,保水力をほとんど失っている(以下要約)。

 広葉樹の森を伐採したり,畑を潰したりし,資材として利用しやすい杉や檜に覆われた林は,拡大造林と呼ばれている。

 苗木はほぼ同じ早さで成長する。だが,狭い土地にすし詰めに植えられた状態では,枝葉が重なり合い,日光が地面まで届かない。そのために必要な間伐も1960年代にほとんどなくなってしまった(福井県の名産に杉間伐材からなる割り箸がある。しかし,同県の大野市の有名ソバ屋で,「資源保護のために,当店では割り箸を使っておりません」という張り紙を見た驚愕はいまでも忘れることができない)。

 1960年代,国産の木材は安い外国産の木材との価格競争で敗れた。さらに新建材(石膏ボードや合板を使った工業製品)も出回るようになると国産の木材の需要が急減した。

 日本は国土の7割が森林だが,そのうちの多くが放置された人工林になった。光を失った大地は生命の息吹を失い,根を深く張らない針葉樹は,比重が軽くて水に浮きやすいため,豪雨の際,濁流を滑るように流れて橋や堤を破壊する(「住民税に1000円加算される森林環境税とは何か?」,2019年3月10日にアクセス)。

 森林の惨状を回復させるには,入会産地を市町村に管理を委託するか,木材の専門業者に運営権を譲渡するしかないと,林野庁長官の沖修司が,『日刊工業新聞』からのインタビューに答えた(要約)。

 同氏は,農地と違って,林業では所有者と作業者が別であるうえに,事業対象となる森林面積が小さくて作業は不効率である。それを改善すべく,「森林環境税」の創設(2019年の国家で審議中)で「小規模な民有林を束ねようと考えました」。

 「管理が難しくなっている人工林を市町村が預かり,林業経営者に貸し出すのが森林バンクという考え方」,それは,「意欲と能力のある林業経営者と,森林を“つなぐ”システム」である,「所有者や境界線の情報を載せた『林地台帳』の整備も進め」る,所有者に経営者に林野を預ける意思を問うためである。

 「新税の創設で,補助金とは違う方法で森林整備ができる道が開けた」,「新税を使った森林整備は,市町村からの発注事業で」あり,「地域に意欲と能力がある林業経営者を育てるきっかけになると期待してい」る。

 「主伐に視点を置くため,高額なA材を切り出せる森林が増え」,「A材(注)を安定供給でき」,「JAS材として構造計算ができる材になれば付加価値がつき,公共施設,倉庫など非住宅用途にも広がり」,「川上から川下までつながり,林業の成長産業化ができ」る。(「日本には数多くの放置された森が…『森林環境税』で整備へ一歩,林野庁・沖修司長官インタビュー」,『ニュースイッチ』日刊工業新聞,2018年1月13日号,2019年3月10日にアクセス)。

 つまり,「森林環境税」の新設は,入会産地をコンセッションの対象にしようと狙うものである。しかし,これでは,過去の入会産地,財産区といった未解決の問題をさらに複雑化させる無謀な政策でしかない。広島市や神戸市に大きく存在する財産区について,現代人は知らなさすぎる。

[注]
  •  原木には,厳密な定義はないが,真っ直ぐのものをA材と呼び,住宅用に使われている。やや曲がったものがB材,曲がった枝状態のものがC材。B,Cは非住宅用。このA材を工業用にも加工できるようにしようというのである。

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