世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
次の日米通商交渉
(静岡県立大学 名誉教授)
2019.03.04
2度目の米朝首脳会議で成果を誇示できる形を示し,制裁関税を交渉力として中国の譲歩を迫り強い大統領を演出する。中国は農産物などの米国製品を1000億ドルも購入する見込みとされ,トランプ政権の任期中に貿易インバランスを劇的に縮小するとの約束をするという報道すらある。本当に問題とされるべきは,市場経済というよりも国家管理の方が強力な体制なのであるが,大きな成果を達成したと支持層に訴えるであろう。次は確実に日本の番である。米国内での支持率低迷と野党などからの批判の高まりだけでなく,与党内からも批判がでてきている。強力な交渉姿勢が予想される。
トランプ政権の交渉姿勢は単純かつ明快である。米国の交渉力をフルに活用して,最大限の譲歩を引き出すということで,民主主義を共有する同盟国への配慮はない。相手が強力かつ捨て身の反撃をしかねないというケースでは妥協も辞さないようだ。大統領選挙の際に報道されていたように,不動産取引では双方が満足するウィン・ウィン関係は成立せず,相手の弱点を突くやり方が目立ったようだ。政権内の要職でも離反が激しく,最近の報道をみると長期にわたり依頼してきた弁護士でさえ簡単に離反してしまう。
トランプ政権は何をするか分からないという見方の報道が多かったようだが,その理由は明白だ。従来の米国政権が維持してきた,米国にとって非常に便益の大きい国際レジームを評価していないか,あるいは理解していないからである。ありえなかったことが,現実に起こるので驚いただけである。選挙戦で保守派に受けるポイントを整理して公約としたとのことで,所得が低迷し取り残されたという被害者意識の強い白人保守層が強力な支持層になっている。その帰結として多国間交渉よりも米国の力が発揮できる二国間交渉が選択される。
トランプ政権の政策はレーガン政権と相似している。レーガン政権は通商法の制裁力を大幅に強化,米国の知的財産権をフルに活用して日本や当時の西独に圧力をかけた。当時,海軍力を強化し米国に挑戦し,アフガン侵攻など強力に見えたソ連にスペースウォーと称された軍拡競争をしかけて,経済基盤の弱いソ連は疲弊し結果的に解体,偉大な大統領と称賛された。しかし,大幅減税と財政支出拡大のつけは1985年のプラザ合意に象徴されるドルに対する円などの強い通貨の大幅切り上げであり,日本経済のバブル,長期低迷につながった。また,民主党政権にも継承された執拗なリーガル・ハラスメントなどで日本の半導体産業も投資意欲を阻害され,衰退した。トランプ政権の発動する制裁はレーガン時代の枠組みであり,乱用されるに至った。
ロン・ヤス関係が通商交渉では無力であったように,トランプ政権は強力な要求を出してくる可能性が高い。従来と同様に農業自由化で揺さぶりをかけ,日本の政権が苦し紛れに譲歩するという構図は悪夢の既視感がある。トランプ政権が代わっても,要求水準は低下しない可能性がある。米国の左派も保護主義に傾いている。悲観的になっても仕方がないので,覚悟を決めて新しい現実の下での繁栄を探るしかなかろう。
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