世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
平成とは何であったか
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2019.01.28
平成は4月で終わる。この平成の30年は日本にとってどんなものであったか。そしてこれから始まる新しい御代はどんなものにしなければならないかをここで考えなければならない。
アメリカの逆襲
1981年から1986年までアメリカに住み,仕事をしていた中で見たことをもとに1988年に『アメリカの底力』という本を書いた。1980年ころから,モノづくり力という点で,アメリカ産業は日本の安い家電製品,半導体にやられ,大変混乱していた。ボーゲル氏の『ジャパンアズナンバーワン』で煽てられ,ソニーの盛田氏が「安くて良いものを売って何が悪い」と啖呵を切り,日本は世界の王者になると慢心し,陶酔していた。アメリカは,技術も教え,市場も開放してやり戦後の日本の産業の復興・発展を助けてやったのに,安い商品でアメリカ産業を追い詰めてしまったことにアメリカは激怒し,今に見ておれという気迫があちこちで感じられた。そこでアメリカはまじめに品質管理を勉強し,イノベーションによる新しい産業を造り,さらに新貿易法・スーパー301条,日米構造協議などの法案をつくり政治力を使って日本に逆襲しようとしていた。これを同書で警告したが,ほとんどの人は私の警告を無視した。
日本の自壊
1989年平成の御代になってから,米ソ冷戦が終わり,アメリカの本格的な日本への逆襲が始まった。日米自動車摩擦,日米半導体摩擦が起こり,たちまちにして日本の家電産業,半導体産業は崩壊してしまった。そして日米構造協議で難題を押し付け,アメリカは日本の習慣・文化を変えて,日本の富を吸い上げている。日本産業,日本経済がガタガタになり,今日のような経済になったことは言うまでもない。
しかし,日本は,アメリカの仕掛けたグローバル化の尻馬に乗り,政府は「改革なくして成長なし」とし,いろいろの行政改革,規制撤廃,民営化,非正規社員制度,マニュフェストを掲げてやったが,ことごとく失敗した。改革ではなく「改悪」であった。そのため日本では「産業政策」はやっても失敗するので禁句となり,アベノミクスの第三の矢は何も実行されなかった。そうして国民は,信じられないものとして国家・公務員,国会議員,マスコミを上げている。日本は関係ないと言っていた2008年のリーマンショックでは大きなボディーブローを受け,それ以来日本は経済成長できなくなって,一人負けをしている。しかしこれは日本政府の誤った政策で悪あがきをしたため,改革ではなく改悪による「自壊」,「内部崩壊」であると言わなければならない。産業界も経営組織が崩壊して,各部門は,会社のためではなく,自分の部門の利害で動き,不正を働き,企業力は衰退していった。国家の没落は外部からの侵略ではなく,内部からの崩壊であると言われている。
それから日本はデフレが始まり,GDPは伸びなくなった。日本の若い人は,バブル崩壊以降,デフレしか見ておらず,資本主義経済のダイナミックな発展の姿は見たことがない。益々デフレが進む。
日本が2010年に中国にGDPで抜かれてから,中国がやりたい放題のことをしている。日本は科学技術力でも先進国での後尾となり,国民大衆の実質賃金,所得も衰退して,国力としても衰退してきた。1980年代までの経済成長時代に稼いだものが国民の貯蓄として残っているので,何とか国力があるように見えるが,それもどんどん減ってきている。日本は,歴史でも珍しい長期のデフレ国になった。中国のインバウンドを喜んでいるのは,日本がデフレで弱体国になったからである。平成とは,日本の没落の時代,「内部崩壊」の時代であった。
次の御代ではどんな日本にしなければならないであろうか
平成の30年のような日本経済社会の自壊,内部崩壊を続けるわけにはいかない。先ず「国の骨格」を正さなければならない。国家とは何であるかを考えることである。
国家の基本は,「国を防衛する力を持ち,イノベーションで通商・産業を興し,国民を豊かにすること」である。言うまでもないが日本は戦後日米安保で国の防衛はアメリカに任せて,「国防」ということを全く忘れてしまっていた。しかし21世紀になり,アメリカの経済力の衰退のなかで,アメリカは「アメリカファースト」で,世界の警察の役割を返上し,日本の防衛はやらないと言いだしてきている。
現在の日本の法制度では外国人はどんどん日本の土地や知的財産を買収できるようになっており,国の重要なインフラ,食の根幹の農業,教育も外国企業に浸食されている。そうした意味で,日本は,軍事以外でも,国防,国土防衛という概念がすっぽり抜けている。インフラが弱体化しており,移民の問題も無防備である。日本は国防という点では無防備であり,外国のスパイ,北朝鮮による拉致を許してしまった。
「自由主義・民主主義の国」という概念と「日米安保という麻薬」で,日本は「国」とはどんなものか,「国防」とはどんなものかの本質を見失っている。日本は,国家として国,国民を守る力がない。軍事力とは別で,国としての「国防力」の基盤をつくることである。
国防と国力という意味では,国の人口を基にしたそれ相応のGDPの大きさを保つ必要がある。アメリカのレベルを基にしても,日本のGDPは700兆円ぐらいになる必要がある。過去20年で,先進諸国はGDPを138%伸ばしているが,日本はマイナス20%であった。
GDPを拡大することは国内の内需を大きなものにすることである。それは国民大衆の所得を高めることであり,そのためには労働分配率を正常に戻し,生産性と賃金の連動させることである。過去20年,アメリカ,イギリスは労働分配率は変えなかったし,ドイツ,フランスは10%弱下げたが,日本は労働分配率を20%以上下げてしまった。そして明確なプロジェクトを基にした国債発行,財政出動をして内需を拡大しなければならない。
これからの新しい世界をリードするために科学技術力を強化することである。そのためには大学の独立行政法人を廃止し,国立科学研究所をつくり,国家の投資として大学に資金を投入し科学力を強化する。そしてその科学により,国防としてのサイバーセキュリティを強化しなければならない。
そうすれば,新しい御代には,国力は増し,国民が豊かに暮らせる良い日本になることになる。そのためには聡明なリーダーを持ち,そして以上のような方策をすすめるための「国家戦略計画省」をつくる必要がある。
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