世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1226

世界経済の地殻変動

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2018.12.24

トランプ貿易戦争

 「アメリカファースト」を連呼するトランプによって仕掛けられた貿易戦争がエスカレートしている。発動された追加関税の応報で,米中はもとより他の国にも経済の後退が出始めている。このトランプの狙いは,単なる貿易赤字の問題ではなく,経済の根幹となる先端技術の中国との主導権争いであり,中国が知的所有権を無視してアメリカの先端技術を盗むことに対する対抗処置であると報じられている。

 しかし,トランプの言動にはそれ以上の意味があるのではないかと思えてならない。トランプが本当にそのように意識しているかどうかは分からないが,世界は今大きな地殻変動が起きはじめており,トランプはそれを後押ししているのではないかという気がする。

トランプの言動

 トランプのように,うつけものと思われるような支離滅裂な言葉を吐き続けるアメリカの大統領はいなかった。大統領としての品格ある言動ではないが,彼はその中で時々極めて重要なことを言っている。トランプは「神が創造したなかで最も偉大な雇用を創る人間になる」と宣言し,そして「アメリカファースト」という言葉で,「アメリカを再び偉大にする」と言った。「自分の使命はアメリカの製造の空洞化を食い止め,アメリカを再び豊かな国民の国にすることである」と。トランプは国連総会で「私たちはグローバリズムの思想を拒絶し,愛国主義を信奉する」と訴えた。本当にやるのかどうか分からないが,グローバル化の行き過ぎを防ぐためにも商業銀行と投資銀行の分割をする「グラス・スティーガル法」の復活を考えているようだ。中国に対しても知的財産としての技術を盗む行為に対して恫喝している。トランプは不動産ビジネスマンで,基本的には戦争で儲けるという考えはないようだ。そしてウォール街とは一線をかくしているようにも見える。GMが突然1万5千人の解雇を発表した時,直ちにトランプはそれを非難し,GMに与えている補助金を停止するぞと言った。このように巨大企業の行動に対して非難した大統領はいなかった。次の選挙のためかもしれないが,トランプは国民大衆,労働者の生活を考えているようである。その背後にあるのは何であろうか。かつては「GMにとって良いことはアメリカにとっても良い」であったが,今や「GMにとって良いことはアメリカにとって悪い」になったということであろうか。

アメリカ経済の衰退

 その一つは,かつて圧倒的な経済力を持っていたアメリカが衰退してきていることである。アメリカは,1975年ころから日本の家電産業にやられてから,製造業が衰退してきて,産業の空洞化を起こし,相対的なアメリカのGDPとしての世界のポジションが劣化してきている。その巻き返しとして1980年頃からのシリコンバレーのイノベーションを起こしたが,GAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)はあまり雇用を創造していないし,多国籍企業とデジタル企業は税金を逃れ,国民国家に貢献していない。そして朝鮮戦争,ベトナム戦争,中東戦争というアメリカが仕掛けた戦争で国力は疲弊してきて,世界の警察の役割を放棄せざるを得なくなっている。特に2000年ぐらいからアメリカは長期停滞に陥っており,その中で世界のリーダーの座を巡り,中国に追い上げられている。

 このアメリカ国力の衰退は,アメリカが,ミルトン・フリードマンの新自由主義の旗を掲げ,自分で仕掛けた「グローバル化」のために起こったのである。

 グローバル化は,多国籍企業,無国籍企業が国境を越え,世界の中で最も安い賃金の労働者を求め,移民をも作り出し,モノと金を移動させて飽くなき利益を追求するものである。結果的には移民はその国の賃金水準を下げる。安い労働力が手に入ると資本は生産性を上げるためのイノベーションとしての投資はしなくなる。グローバル企業は自分の技術に挑戦する新しい技術を殺す。これが経済力を衰退させていく。

 激烈な競争と寡占が入り交じり,その結果,国民の所得は停滞し,モノの値段も下がり,デフレになる。国民大衆の所得が停滞するとその国の需要は縮小し,価格が下がる。そうなると資本は新しい生産的投資に向かわない。余った金融資本は詐欺的な行為で富を収奪する。これがグローバリゼーションの行き過ぎでもたらされるものである。

国民国家の主権が失われる

 グローバリゼーション化は,国際分業を破壊して,新しいグローバルサプライチェーンをつくり,細分化された生産工程,部品の世界的な調達をするが,これは1円でも安い方に常に組み替えられるので,一国の産業,経済は常に不安定な状況に置かれる。金融資本は世界を駆け巡り,国民経済を錯乱し,富の収奪をする。グローバル化は,非関税障壁をなくせとして,その国の文化,社会慣習,生活様式まで変えてしまう。2000年ころからのデジタル革命がこのグローバル化に拍車をかけてきているのである。EUのイギリス,イタリア,スペインなどの問題はこれである。

グローバル化によるデフレ

 資本主義経済の発展はイノベーションを通じて進むものである。経済の拡大期には労働者の需要が高くなり,賃金が上昇する。この高い賃金でも商品を安く売るために投資をして生産技術のイノベーションを行う。そうすると労働者の所得が向上し,購買力が高まり需要としての市場が拡大し,経済は発展する。生産性と賃金の上昇が連動する。これが本来の資本主義経済の「収穫逓増」の発展の姿である。

 グローバル化は,あらゆる規制をはねのけて,世界で最も賃金の安い国を探し,そこに工場を移動するオフショアリングを起こしている。工場が消えていった国では当然ながら,仕事な無くなるので,失業者が増え,賃金が下がる。結果は商品の価格は下がるが,需要としての国民大衆の所得は減り,モノが売れなくなりデフレになる。もっと重要なことは安い賃金を求めて世界を動き回ることは,生産性向上への投資がなくなり,イノベーションを興さない。そのため生産性が低減し,経済が衰退する。「底辺への競争」で,デフレに陥れる。儲かるのはグローバル企業である。つまりグローバル化の資本主義は「収穫逓減」に陥り,デフレになり,ますます国民大衆は貧困化する。

 中国が経済を拡大したのは,アメリカなどのオフショアリングの動きに呼応して,1978年から鄧小平が「改革開放」で,外国の資本と技術を呼び寄せ安い賃金の労働力を提供して「世界の工場」を展開してからである。これで世界の商品のコストは下がった。しかし中国には組み立て加工の安い労賃しか残らず,世界全体としての需要は拡大せず,デフレを蔓延させた。アップルのスマホが中国で組み立てられているが,安い賃金のために中国の組み立て加工費として残るのは微々たるものだ。中国も世界の工場を返上し,中国の市場としての内需が拡大しなければならないのだが,中国はアメリカがやったように,帯一路,AIIBを通じて,グローバル化を推し進めようとしてる。中国も所得格差が近年拡大し,これまでの消費が牽引してきた中国経済にブレーキがかかっている。アメリカのグローバル企業グループと中国のグローバル企業グループとがバトルすると世界経済は大混乱する。

 グローバル化で世界経済を拡大発展させようということであったが,1950年から1973年の平均実質成長率は4.8%であったのに,新自由主義でグローバリゼーションが進んだ1980年から2009年では3.2%と鈍化している。グローバル化は,多少格差は起こるが,トリクルダウンが起こり,皆が豊かになる筈であったが,そうならなかった。2000年ころから新興国(BRICS)が経済発展をして物価上昇が急速に上昇していたが,1995年以降新興国も,先進国と同じように物価上昇が止まり,世界全体がデフレになってきている。その中で日本は最もデフレに悩まされている国である。日本はTPPを展開して更に輸出が伸びると考えているのであろうが,TTP加盟国全員が他国に輸出攻勢をかると,全体の経済は悪くなる。

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