世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1208
世界経済評論IMPACT No.1208

就活大生と「AI(人工知能)」:就活大生が想定する「AIに代替される」業種・職種

平田 潤

(桜美林大学院 教授)

2018.11.19

 2018年8月,就職情報大手のリクルートキャリア社が発表した,2019年入社予定学生による,「AIの発達で無くなる可能性がある業種・職種」モニタリング調査では,かなりドラスティックな結果が示され,各方面で話題になっている。

 同調査によれば,就活大生がAIの発達により「消える可能性」ありと考える業種(複数回答)として最も多かったのが金融産業であり,「銀行(信金・信組を含む)」,次いで「保険(生・損保)」,「證券」が上位を占めた。また同様に無くなる可能性がある職種としては,1.事務・スタッフ関連職,2.金融スペシャリスト(ディーラーや融資担当,證券アナリスト)などであった。

 同調査結果は,社会人一歩手前の大学生による就活段階での「イメージ」であるといえるものの,ICT時代に育った大学生諸氏の「センス」,或は「企業研究」に基づく判断であり,我々就活大生にアドバイスを行う立場の者には勿論,企業にとっても無視できない内容ではあるまいか?

 ここでAIによって代替可能性が高いとされる業種〔金融業〕と職種〔事務・スタッフ部門〕はというと,それぞれAIを活用した新たなプラットフォーム,ないしはビジネスモデルであるFinTech(ファイナンスとICTとの融合,ICT化),及びRPA(Robotic Process Automation)がまさに急拡大している分野であり,AIが最も効果を発揮しそうな領域であるともいえよう。

 今回AIの影響が突出して大きいとされた「銀行」の場合,毎年多くの新規採用を行っており,学生の就職人気ランキングで上位に位置付けられてきた。(2018年度ではかなり順位を落としているが)2017年度の採用実績(推定ベース)では,新卒学生採用数ベスト20社のうち約半数は,銀行(グループ)をはじめとする金融企業が占めている。こうした就職先としての「金融」人気の背景としては,ビジネスとして安定性が高い,採用数が多いことの他に,就活大生が重視する「働き方や環境面」について,

  • ① 女性の活躍が浸透していて,様々なキャリアコース・プランを選択できる,
  • ② ワークライフ・バランスが考慮され,出産・子育てへの配慮・支援がかなり制度化されている企業が多く,産休や育児休暇などが比較的取りやすい,
  • ③ 福利厚生や研修制度が充実しており,人材育成に積極的,
といった点が指摘される。

 ところで学生諸氏にとって,ビジネスとしての金融,とくに銀行の存在感はどうか?

 長期にわたる非伝統的/異次元的政策金利環境下で,a:(利息が無いに等しい)魅力の乏しい金融商品=「預貯金」が常態化し,b:本来の金融仲介分野では,リスクマネーの供給や企業の再建・再編で,各種の官・民ファンドに蚕食され,さらには,c:資金移動/決済システム提供といった分野でも,すでにコンビニの利用や電子マネーの普及,さらにはFinTechによるスマホ決済の登場などによって地盤沈下してきている。そして(間接金融が果たすマクロ経済的な役割り,信用創造機能の重要性はさておき),ユーザーにとって,金融の基幹的なインフラを提供するが,あまり魅力ある業種には見えなくなりつつある。

 こうした中でのFinTech興隆を契機とした,メガバンク等による抜本的な店舗・人員の見直し計画の一斉公表が,大きなインパクトを与えたことは否定できない。

 さて今回調査で,就活大生がイメージするAIによる雇用への影響については,上記諸点のみならず幾つかの特色が見られる。まず業種面では,A:人材関連(派遣や斡旋等)や,B:情報サービス・調査業といった分野は,AIからのダメージはそれほどでもない,と考えられている。

 職種では,C:商品企画・マーケティング関連,D:専門・スペシャリスト(コンサルティング,教員,保育士,社会福祉士),E:クリエイティブ関連(デザイナー,ゲームクリエイター等)は,相対的にその将来性を評価されているともいえよう。

 こうした就活大生の視点に対して,筆者なりの推論を試みてみたい。

 今回リストアップされた業種・職種は,現在の就活大生への雇用需要の大宗を占める「広義のサービス産業」(鉄道・道路・航空などの運輸業にしても,車両製造ではなく輸送サービス)である。そこでまず,「広義のサービス産業(業種)」をおおまかに,X:知識集約型サービス産業(職種),Y:労働集約型サービス産業(職種),そしてZ:ホスピタリティ型サービス産業(職種)に分類すると,

  • ① X,Y,ZいずれもAIの影響を受けるにしても,
  • ② X知識集約型産業では,現在形式知のみならず経験知もデジタル化,ICT化,AI化が進む中で,通常の環境下で,汎用ソフトの使用や定型的パターンの知的判断で対応できる業種・職種ほど,代替可能性・ダメージが大きい,とみられる。(自動翻訳や会計・財務ソフトの導入,プログラム・トレーディングやAIによる資金運用等,すでにかなり高度な業務も代替されつつあり,コストを削減している。一方内外の不規則な環境に対応して,不断の選択・意思決定が重視され,説明責任を問われる分野は,AIでは代替しにくいであろう。
  • ③ Y労働集約型産業では,多くの一般事務でRPAの導入が推進されよう。そして人件費負担が重く,体系/定型的な業務ほどRPAやAIを活用するインセンティブが高いと思われる。(例えば多くのデータを収集したり,インプット/記録する,デジタル転換する,マス・マーケティング,顧客動向の分析など)つまりこれまで人が行っていたパソコンワークや手作業による一般事務をソフトウエアロボットが行っていくという,RPAが活躍する分野が広がると思われる。
  • ④ Zホスピタリティ型産業では,(アルバイト等で接客経験が多い学生諸氏は,対人コミュニケーションを要する産業について,それほどAIには駆逐されないと実感しているようだ。) 就活大生の視点では,教員や,保育/福祉/介護分野(需要に対して供給不足・ミスマッチが昂進しつつある)は今後も残り,さらにゲームや各種エンターテイメントの作り手など,創造性〔新しさ〕が要求される分野がAI時代にも代替されず消えにくいと考えている。

 もっとも対人個別サービス業務は,現在人手不足が深刻で,外国人労働者への依存の高まりが指摘されている。この分野は,企業サイドからもICT化/AI導入努力が急ピッチで進んでいることから,定型的な部分の代替(教育分野におけるe-learningの浸透など)は思ったより早いかもしれない。

 一方でスポーツや教育で,ユーザーにホスピタリティに加え,a付加価値を高めていくパーソナル・コーチや,b複雑性を増す環境に,人々が柔軟に対応していくための高度な諸アドバイスを提供できるセラピストやカウンセラー,cプチ・イノベーターであるともいえる各種デザイナー,プロデューサーといった,職種への需要が高まると思われる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1208.html)

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