世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ミャンマーにおける外資による教育分野への参入の可能性
(金沢星稜大学経済学部 教授)
2018.09.24
ミャンマーがダイナミックに変化するなかで,教育分野への外資参入の可能性について検討してみた。
ミャンマーの新会社法(2017年12月公布)が予定どおり8月1日に施行された。新会社法の主な改正内容は以下のとおりである。
- 1.外資比率が35%以下の企業は,ミャンマー企業(内資企業)として取り扱われる。
- 2.会社の株式数は最低1株から発行を認める。
- 3.株式の額面および授権資本は廃止。
- 4.取締役は1人以上で,最低1人はミャンマーの居住者(年間183日以上滞在)であること。
- 5.定款を作成すること。
- 6.海外会社の支店が当地で事業を行う場合には,新会社法に基づき登録すること。
- 7.会社登録は,投資企業管理局のオンライン登録システムで行うこと。
- *旧法下では株主が最低2人必要だったが,最低1人からでも認められるよう変更された。
2017年4月からの新投資法の運用,そして今回の新会社法施行により,ミャンマーの投資環境は着実に整備されてきており,さらなる外資進出につながることが期待されている(注1)。
この外資進出の対象として学校の進出を考えられないかと筆者は感じる。というのは,2017年5月にヤンゴンを訪れた際に大手商社とのインタビューで示唆に富むことが多く聞かれた。2015年から日系3メガバンクが入ることで金融に関してのパラダイム変換が起きているという。ミャンマーでは複式簿記が義務化されていない現状にある。単式簿記なので前払いや繰り延べ,償却という概念がない。税制も単式簿記である。これらはJICAなどが人づくりということで少しずつ業務指導を行っているが,今後の会計面での人づくりという面では強化していくべき課題である。
日本をはじめ複式簿記が一般的な国にとっては驚きであった。今後は,ODAなどにとどまらず簿記学校などが進出することでこの環境が変化していくのではないかと筆者は強く感じた(注2)。
例えば,2015年にミャンマー商工会議所連盟が主催し,日本商工会議所や国際協力機構(JICA)が共催し,日商簿記啓発セミナーを開いている(https://www.jica.go.jp/japancenter/article/2015/20151112.html)2018年9月5日アクセス)。
2018年5月に以下のようなニュースがあったことにより現実的な流れが出てきたと感じる。
ミャンマー投資委員会(MIC)は2018年4月20日,教育分野で100%外資による投資を認める通達(No.7/2018)を公布した。
ミャンマーでは国家教育法(2014年9月30日制定)が存在するが,関連する細則や通達がなかったため,外資企業が教育分野に投資する際の手続きが不明確だった。同通達により,語学学校や職業訓練校などについて100%外資での投資が認められること,投資法やその規則・通達および国家教育法を順守すべきことなどが明確になった。ただし,同通達第2条によると,語学学校や職業訓練校に対してMICが「許可を与える」と規定されており,MICへの投資申請を前提としたものになっている。MICへの投資申請は通常,大規模で重要な投資に限定され,一般的に許可のハードルが高いとされている。この点,MICによると,小規模な投資は想定していないもようだ。インターナショナルスクールといった大規模な投資が必要なものはこの通達の対象となり得るが,小規模な語学学校のようなものは想定していない可能性がある。規模の大小にかかわらず外資による民間学校の設立ニーズは高く,小規模な投資を受け入れないという趣旨ではないことが期待されるものの,今後の実務面での運用が注目される(注3)。
法律・制度面の整備をさらに進めていくことが重要であるが,懸念しているのは,肝心となる運用面で不透明な手続きをしていると外資が遠ざかってしまう。この点に留意して進めていくことを望んでいる。
[注]
- (1)ジェトロ「ビジネス短信」2018年08月06日(https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/08/826fb60b934ce4e5.html:2018年9月19日アクセス
- (2)川島哲「ミャンマー新政権樹立以降の経済的変化とその課題」『金沢星稜大学論集』第51巻第1号,PP.13-23,金沢星稜大学学会経済部会,2017年。
- (3)ジェトロ「ビジネス短信」2018年05月09日(https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/05/3c2aac7af894d9fc.html:2018年9月19日アクセス
- *本稿の詳細については,『金沢星稜大学論集』第52巻第1号(2018年9月)に掲載予定である。
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