世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1106

台湾プラスチック麥寮コンプレックスの迫力と日本企業

橘川武郎

(東京理科大学大学院経営学研究科 教授)

2018.07.09

 今年5月,世界トップクラスの規模と競争力を誇る石油・石化コンビナートである台湾プラスチックグループ・麥寮(マイリャオ)コンプレックスを見学する機会を得た。台湾第3の都市・台中から車で南西へ1時間20分ほどの距離に立地する同コンビナートは,とにかく巨大である。

 南北方向に8km,東西方向に4kmにわたる2603haの敷地に18万バレル/日の常圧蒸留装置(トッパー)が3基(合計54万バレル/日),年産73万トン・100万トン・120万トンのナフサクラッカーが各1基(合計293万トン/年),出力60万kWの石炭火力発電設備が3基(合計180万kW)を含む大型設備が建ち並ぶ。日本国内には,1箇所で54万バレル/日ものトッパー能力を有する製油所はない。1基で120万トン/年もの生産能力をもつナフサクラッカーも存在しない。麥寮コンプレックスの石炭火力発電所から売却される電力量は,台湾全体の総発電力量の11%に達する。どれをとっても,桁違いの大きさなのだ。

 しかも驚くべきことに,麥寮コンプレックスの全体が,台湾プラスチックグループ(台塑企業,Formosa Plastics Group)という1企業体によって,所有・運営されている。全国各地に分散して存在し,しかも同一地区内に多数の企業が林立して,「地理の壁」・「資本の壁」に悩む日本のコンビナートの場合とは,事情がまったく異なる。

 台湾プラスチックグループは,1954年に台湾・高雄の塩ビメーカーとして,産声をあげた。石化企業として着実に成長をとげた同社は,1990年代前半に麥寮の地に主要な生産拠点を移し,石油化学事業から上流に遡及して石油精製事業にも展開するようになった。かつて遠浅の海を利用して牡蠣の養殖がさかんであった麥寮の浜は,大規模な浚渫埋立によって,台湾を代表する工業港に変貌し,台湾プラスチックグループは,整備された工業用地に巨大な石油精製・石化プラントを建設した。その後同グループは,麥寮で発電事業を開始するとともに,病院運営,ホテル経営,大学運営などにも事業の手を広げた。最近では,ベトナムに製鉄所も建設した。台湾プラスチックグループは,今日では,台湾経済の屋台骨を支える大企業となっている。

 麥寮コンプレックスの国際競争力を生み出すもう一つの源泉は,港湾だ。最深部でマイナス24mに及ぶ麥寮コンプレックスの専用港には,30万トン級の超大型タンカー(VLCC)が直桟できる。訪れた日も,20万トンクラスの大型船舶が停泊中であった。これらの大型船舶によって,原油輸入のみならず製品輸出も行われる。主要な製品販売先である中国本土とは,わずか200kmしか離れていない。麥寮港には,多くのアンローダーを擁する石炭陸揚げ設備も存在する。LP(液化石油)ガスを取り扱う埠頭も,広く大きい。規模の経済の威力を遺憾なく発揮する石油精製・石化プラントや石炭火力発電設備だけでなく,大規模で効率的な港湾施設もまた,麥寮コンプレックスの世界トップクラスの国際競争力を支えていることは明らかである。

 麥寮コンプレックスの圧倒的な競争力を目の当たりにして,日本の石油精製・石化企業はどう立ち向かえばよいのかと,思わず考えた。答えのヒントを与えるのは,コンプレックス内には,台湾プラスチックグループが日本企業を含む外国企業と提携して建設したプラントがいくつかあるという事実だ。

 例えば出光興産は,自前の技術を活かして,台湾プラスチックグループと合弁企業を設立し,麥寮コンプレックス内に水添石油樹脂のプラントを建設中である。その現場に立つと,出光興産・徳山事業所内に存在する同種の装置に比べて,規模が大きいことがよくわかった。

 出光興産はまた,生産技術をライセンスしたことを契機にして,台湾プラスチックグループとポリカーボネートの販売合弁企業を経営している。用途の開拓を含む高付加価値製品の開発に出光興産が貢献していることもあって,当該プリカーボネート事業の収益性は,近年向上していると聞いた。

 台湾プラスチックグループが強い国際競争力を有しているとはいえ,技術面や人材確保面で日本企業に依存する部分は,まだまだ存在する。この事実をふまえて,台湾プラスチックグループと提携し,グローバルに事業を展開してゆく。そのことは,日本の石油精製・石化企業にとって,重要な成長戦略の一つになるのではなかろうか。

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