世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1075
世界経済評論IMPACT No.1075

日中韓による「一帯一路版OECD」設立の提案を

朽木昭文

(日本大学 教授)

2018.05.14

 アメリカ・トランプ大統領は,環太平洋経済連携協定(TPP)の本質の理解を間違えた。TPPは,単に関税率の引き下げ交渉ではない。Economistによれば,TPPの本質は21世紀の自由貿易のルール作りである(2016年11月23日,’The Collapse of the Trans-Pacific Partnership’)。現に,アメリカとのTPPの原案作りに関わった元・経済産業省通商政策局長の鈴木英夫著『新覇権国家中国×TPP日米同盟』(2016)は,国有企業や産業政策などの自由貿易を阻害する在り方をどう制限するかというルールを設定したことを明らかにした。

 このトランプ大統領のおかげで,一帯一路建設が世界の自由貿易のルール作りを左右する可能性が出てきた。一帯一路建設は,陸のシルクロードと海のシルクロードを建設し,これがアジアからヨーロッパ,アフリカにつながる。この一帯一路建設に日本はどうかかわるのかを問われている。

1.一帯一路版OECDの創設を

 一帯一路建設は,「一帯一路参加国の利益」を第1に考慮する必要がある。一帯一路版OECDは,各一帯一路参加国の持続的経済成長を目指し,一帯一路参加国全体の利益に沿った地域統合のあり方と整合的でなければならない。一帯一路版OECDは,一方で「研究活動」を実施し,他方で地域統合において「経済政策の調整」を行う。

2.一帯一路日本研究センターの研究内容

 一帯一路版OECDは,持続的経済成長とインフラ・連結性の強化のための研究を目指す。また,一帯一路参加国間の「経済政策の調整」を目的とする。この調整は,一帯一路建設におけるガバナンスに貢献する。ここで,①一帯一路参加国,②中国,③日本・韓国のインセンティブを考察する。

3.日本,韓国,中国の3国による4本の柱の国際協力

 貿易,投資,ODA,地域統合の4つを組み合わせた4つの柱の国際協力が一帯一路建設において必要である。ここで,地域統合とは,インフラ・連結性の強化である。ここで,連結性とは,物的連結性(鉄道,道路など),制度的連結性(貿易円滑化など),人的連結性の3つである。連結性の強化は,空間経済学で「広義の輸送費」である。この削減は,産業集積を中国から一帯一路参加国へシフトを促す。

 そこで,一帯一路参加国の①,②,③それぞれの参加へのインセンティブは次のとおりである。

  • ①一帯一路建設・参加国は,多くの国で「中所得国の罠」から脱するために生産構造の高度化を,また消費の質の高度化を必要とする。この点に,日本,韓国,中国の3国による国際協力の可能性がある。
  • ②中国経済は,一帯一路建設にガバナンスを導入することで透明性を増すことができる。また,「新常態」に適応し,「発展パターンの転換」の時期に入った。産業構造の高度化は,消費構造の高度化とともに革新(イノベーション)により実施される。このために,一帯一路建設による地域統合を進める一方で,「自由貿易試験区」を建設する。ここで,日中韓の協力がありうる。
  • ③一帯一路建設が着々と進む中で日本企業のビジネス機会が次の3つである。日本の考えられる対応の可能性は,次の3通りである。
  •  第1に,外国直接投資(FDI)として中国の「自由貿易試験区」に立地する。その業種は,新興産業5分野として,①新世代情報技術(IoT,AIなど),②ハイエンド製造,③バイオ,④グリーン低炭素,⑤デジタルクリエイティブである。試験区で共同してイノベーションを起こす。第2に,一帯一路建設のインフラ・連結性の強化において資金と日本独自の技術の提供により参加する。第3に,労働集約産業が中国から一帯一路参加国へ労働集約産業を移す場合に,日本企業が一帯一路参加国での投資機会を見出す。

4.一帯一路版OECDへ

 一帯一路版OECDが,持続的経済成長とインフラ・連結性の強化のための研究を進め,経済政策の調整機能を持ち,ガバナンスを確立する。できるだけ早くアジアにこの国際機関を設立することが不可欠である。2018年度に日中韓サミットや日中の首脳会談が予定されている。年度内に一帯一路版OECDの創設に向けた一歩が進められることを願う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1075.html)

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