世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1027

スウェーデンの労働事情雑感

岸本寿生

(富山大学 教授)

2018.03.12

 「働き方改革」の議論をはじめ,ダイバシティ経営や女性活躍推進,ワーク・ライフ・バランスなど日本の労働環境の抜本的な変革が求められている。その様な際に,先進国,模範国として見られているのが,北欧のスウェーデンである。ここ数年,スウェーデンを訪問し,研究者や実業界関係者の話を聞く機会を得た。

 興味深いデータとして,スウェーデンの女性管理職比率は3割を超え,女性の専業主婦率は約3%,男性の家事・育児時間が3時間を超えると言われる。実際,街中を歩けば,ベビーカーをひく男性の姿をよく目にする。合計特殊出生率は,1990年に2.13%であったものが1999年に1.50%に低下したが,2015年には1.88%まで回復している。

 他方,高齢者(65歳以上人口比率)は,1990年17.82%で世界1位であり,2016年19.83%で8位である。日本は,1990年11.87%(24位),2016年26.56%(1位)である。両国とも高齢化社会であるが,高齢者福祉のあり方に違いが見られる。スウェーデンの高齢者は,老人ホームやグループホームのような高齢者住宅に住む比率が高く,古城を改装した老人福祉施設などもあるという。

 このような状況は,スウェーデン・モデルとして紹介されることが多く,スウェーデンの雇用政策,福祉政策について多くの報告がなされている。しかし,日本において人口規模,経済規模の違いから必ずしも参考にできないとの意見もある。

 現地でいくつかユニークな話が聞けたので紹介したい。まずは,高福祉国家への経緯であるが,19世紀後半から20世紀初頭にかけて,食糧不足などから逃れるために人口の約4分の1が米国など外国に移住したという。その結果,国民の中に「働ける者は皆働いて国を豊かにし,少しでもいい家を,いい教育を,いい福祉を手に入れよう」というコンセンサスができたという。その後,人口政策が主要な課題となった。

 また,1960年代に消費税を導入し,高福祉,所得再配分の実現を目指す政策を実行した。その中核となるのは,徹底した個人主義であるという。高福祉を維持するためには,高額な納税制度(一部の高額所得者は国外移住をした),給与ベースの年金制度(年金は自分自身で稼得した賃金のみをベースに計算される。したがって結婚後も働き続けないと年金は少なくなる),さらに年金分割のない離婚制度など,国民全員が働かなければならないような社会環境になった。そして,保育施設や介護施設も費用負担が大きくならないような制度を作り,育児休業も男女各8ヶ月取得するのがトレンドであるという。さらに,子供に親の介護をする義務がないとのこと,高齢者の介護の手続や意思確認は地方自治体が行え,子供の負担を軽減するようになっている。

 また,労働時間に関する労働協約の検討や実情の把握は労働組合が積極的に行っている。個人主義の環境の中で,女性の就業率の向上は女性個人で生涯に亘る生活を成り立たせる必要があり,そのための応分の報酬や地位を得るようになってきている。

 しかし,問題点もある。男女の賃金格差は依然として存在しており,その結果,女性の単身高齢者にとっては不利な状況が存在する。また,厳格な労働時間管理は,時には日本では考えられないようなことが起こる。例えば,病院で診察を待っていても,終業時刻が来ると医師が帰宅してしまうので,診療が受けられないようなことが起こる。救急の場合でも,医師を求めてたらい回しになるという。倫理的な問題があるが,制度の徹底した履行が,今日のスウェーデン社会を形成している要因かもしれない。

 対照的に,日本は,働き方や福祉のあり方についての合意形成がなされているとは言い難い。KAROSHI(過労死)が世界共通語となるなかで,ジャパン・モデルと言われるような大局的な見地のコンセンサス作りが肝要である。当然,言うことは簡単であるが。

 スウェーデンで,日本の現状について話すと,誰もが驚いたあと微笑んでくれたことが印象的であった。

[参考文献]
  • 内閣府経済社会総合研究所(2005)「スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査」
  • 小畑史子(2017)「女性活躍推進法の意義 : 労働時間・女性管理職比率を中心に (シンポジウム 女性活躍推進と労働法)」『日本労働法学会誌』Vol.130. pp.100-112.

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