世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1018
世界経済評論IMPACT No.1018

日本社会の自立への道:(その2)

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役社長)

2018.02.26

 1929年の大恐慌で,国民大衆の膨大な富が崩壊し,収奪された。その大恐慌で他人の富を収奪した犯人がいるのではということでペコラ委員会を1932年設置し,詐欺の手口を徹底的に調査分析した。その調査結果がペコラ委員会レポートである。ペコラ委員会で詐欺,犯罪の手口が明らかになった。当初のペコラ委員会の調査費用として25万ドルを投下したが,これにより国家としてその投資にたいして計り知れないほどの膨大な利益を上げることができたと報告している。「奔馬と御者」の仕組みである。ペコラ委員会レポートは,新しい詐欺の手口はその都度アップデートされている。正しい取引を判断する10b-5の責任者がおり,実体経済資本と擬制資本としての株式資本のバランスを常に見ている者もいる。このペコラ員会レポート,ハウイ判決,証券取引法,独占禁止法,公正取引法などにより1980年ころまで,アメリカ経済活動を旨く制御してき,「アメリカ経済の黄金時代」を築きあげたことは言うまでもない。

 しかし,国のかたちやその制御装置を決めても,それを実際に確実に実行する力がなければ何の意味もない。つまり,目的とその仕組みがあっても実際にそれが機能しているかどうかは別問題である。確実に実行する仕組みをアメリカは持っている。これが極めて重要なことである。日本もアメリカの真似をして似たような組織を作っているが,その実行させる力は日本には基本的に抜けている。このことをほとんどの日本人は認識していない。

 つまり重要なものはその目的に沿って確実に実行できるかどうかであり,そのためにアメリカには「エンフォースメント」という概念がある。国防,国の富みの拡大という意味において,実際にそれをどう実行するかどうか,どう実行させるかである。これは是正,制裁といった実効性の確保の仕組みである。アメリカは,それを国として可能にするために,いろいろのかたちで「エンフォースメント・セミナー」が行われ,関係部署の多くの人を今でもトレーニングしていることはあまり外では知られていない。これは結果的に国のイノベーション力を高め,国の富,国力を確実に高めるための重要な考えである。法の実現のために行う,執行機関があらゆる分野に設置されている。そしてその実行と責任の取り方を明確にしている。

 エンフォースメントの前提として「インベスティゲーション」がある。「インベスティゲーション・ソース」が重要で,事件の裏勘定の秘密まで徹底的に調べることである。その上で「エンフォースメント」ができる。日本は,捜査権の限界があり,裏勘定の秘密まで明らかにする力がないので,犯人に旨く逃げられてしまう。現状のやれる範囲で何とか「コントロール」するというのと,事柄の本質まで究明して,その上で「レギュレート」し,「エンフォース」することとは天と地の差がある。日本は「インベスティゲーション」が中途半端であり,本質を極めるという力がないために,本物のサイエンスも生まれない。

 この目的の一つとして,国家が民事訴訟をコントロールしていることである。民事訴訟においても,その取り締まりには必要ならば,FBI,州兵,沿岸警備隊,航空機管制,CIA,「おとり捜査を含めた捜査」,盗聴などをフルに動員する。

 つまり,国全体の国力の増進には,国家財政のコントロールだけでは駄目で,民事を含めた国全体の,そして市場全体のコントロールをどうするかである。アメリカではこれを「レギュレートする」という言葉を使う。そのためにいろいろの民事訴訟の「決済」をきちんとさせることである。責任の取り方,人間の命の決済までも含むという厳しいものである。アメリカでは詐欺,犯罪の懲罰は厳しい。日本のように甘いと,犯罪者が「やり得」に走る。アメリカでは数倍額損害賠償制度があり,普通は,被害にあった額の3倍を犯罪者に支払わせる3倍賠償が実施されている。そのためには国家が民事訴訟にも関与する。そうしなければ国家としての決済ができないし,国家の富,国家の国防力は衰退することになるとアメリカは認識している。これがまた日本では欠落している。

 筆者が働いていたケイデンス・デザイン社のソフトを盗んだアバンテ社の社長ジェリー・ス―も,FBIの介入もあり,仮差し押さえInjunctionで800憶円を差し押さえられ,そして刑務所に入った。これで被害者のケーデンスは800億円を得た。3倍賠償である。

 日本では企業も不正を働いても,社会的な非難はあるが,差し押さえで財産を凍結されることもなく,経営者は刑務所に行くこともないようだ。ただ責任者が辞任するだけである。これまで日本にも多くの詐欺事件があったが,このような意味での「決済」はなされていない。(犯罪者は発覚した時にすぐ奪ったものを隠してしまう。後で裁判になっても取られたものは戻らない。アメリカでは仮差し押さえInjunctionでこれを封じている)。

 アメリカも時々,外に対して悪意をもったエンフォースメントをやる。筆者の言うアメリカの「司法省産業」である。雲霧仁左衛門の仕業のように日本は誰も気づかないうちに財産をごっそりアメリカに取られている。具体的にはカルテル違反,企業が社会的に被害を与えた,株主に対して不正を働いたなどという理由をつけて,どんどん金を巻き上げる。日本企業が狙い撃ちされているのは記憶に新しい。TPPのクラスアクション損害賠償請求権(CAFA)もその狙いがある。日本長期信用銀行,トヨタ,タカタ,東芝もその餌食になっている。ジャパン・アズ・ナンバーワンと言ってNYのロックフェラーセンターを買収して日本は喜んだが,最終的にはアメリカはこれで日本から膨大な金を巻き上げた。これ以外にもたくさんあるが,これに日本は気付いていない。最終的に東芝も解体され,民事訴訟でアメリカにより資産を剥奪されている恐れがある。(続く)

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1018.html)

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