世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1016

トランプ政権の教書・国防政策を読んで

坂本正弘

(日本国際フォーラム 上席研究員)

2018.02.26

1.米国の1月,2月は教書の季節で,今年も一般教書,予算教書が出たが,それと並行して,トランプ政権初の安全保障戦略,国防戦略,核戦略の見直しが相次いで出た。トランプ政権で常に気になるのは,大統領と他の閣僚との差異である。一般教書演説でのトランプ大統領は,直前の台風,洪水,山火事での対応者を称賛し,また,昨年末の減税,法人税引き下げが,米国を機会の国となっている誇り,テレビに強い話術士ぶりを示した。しかし,米国の脅威の順は,北朝鮮などの無頼国家,テロリスト,中・露の競合国との認識は,安保・国防報告の中・露,無頼国家,テロリストの順と異なる。認識の差か,ロシア疑惑の絡みか?

2.但し,安保,国防報告,核戦略報告の基本線は一致しており,報告書の公表は中長期の軍事態勢を整備する上での役割を保障している。予算教書直前に成立した共和・民主党の国防予算増額を支持する合意も保障を強化する。大統領の「米国第一主義」も,中・露の挑戦が19世紀的大国間対立の復帰の国際環境では,対抗の論理として有効となっている。米軍の即応性を高め,強い攻撃力を持つ統合軍の形成が勧告されたが,核使用に関し,条件を緩和し,状況に応じて使用可能な非戦略核の開発を宣言したことは画期的である。

3.米国では予算は議会が作る。2018年11月の中間選挙を経て,財政赤字が再び問題になり,軍事費調達が不十分となる疑念が残る。筆者は米国がアフガニスタン問題を処理し,中東での負担を軽くしない限り,軍事予算を継続的に充実できないのではないかと危惧する。

4.米国の競合国として,中国を先頭にし,ロシヤを次にしたのは正しい判断である。ロシヤは衰退大国だとの意見は,米国でも強い。しかし,米国に強い反感を持ち,大統領選挙にまで干渉したロシヤの扱いは,競合国よりも敵対国に近いニュアンスを感じる。19世紀末の英米関係はよくなったが,強い秩序破壊者のドイツの台頭で,英独は戦争に突入した。米露の対立激化は,中国を利するだけであることを,ロシヤも米国も理解する必要があるが,安倍首相の出番があるのではないか?

5.その安倍首相とトランプ大統領の関係は,20回に近い長い電話会談に示され,日米関係を良好にしているが,その背後には,日米共通の関心事の合致がある。米国安保・国防報告の指摘の通り,米国の最重視するアジアには中国と北朝鮮の挑戦がある。北朝鮮問題は,緊急な優先課題だが,平昌での冬季オリンピックが,文政権と日米のずれを生んでいる。米韓合同演習が4月から行われるか,北朝鮮がいつ核やミサイル実験を行うかも,注目である。

 中国が,長期的に最大の関心国であるのも共通だが,短期的には一致ばかりではない。トランプ大統領は二国間取引を重視し,北朝鮮への中国の影響力を利用したく,中国に甘くなる。南シナ海問題が典型だが,米国防戦略の主張する実際の行動を期待したいものある。

6.トランプ政権には,自国の防衛は,日本自身で行うべきとの姿勢があるが,アジア情勢の厳しさを考えれば当然である。現在,南西諸島への防衛シフトが進行しているが,2018年末の防衛大綱は,更なる自力の国防力の強化を目指す必要を示すことになろう。

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