世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1007

日本的サービスの国際移転と現地人材育成の壁

桑名義晴

(桜美林大学大学院 教授)

2018.02.05

 世界の主要都市を訪問していると,近年日本発の店が急増したのに目を見張らされる。回転寿司は多くの都市にあるし,和食レストランもあちこちにある。ユニクロや良品計画といった衣料や生活雑貨の店舗も多くのショッピングセンターに入っている。日本風のラーメン店となると,繁華街に何軒もあり,どこも地元客で大賑わいである。

 サービス産業は,かつて典型的なドメステック産業で,国際展開には向かないと考えられていた。このため,海外に進出しても,主に日本人観光客を相手にしており,業績が振るわず,撤退するケースが多かった。しかし,近年では国内市場が少子・高齢化で急速に縮小しているので,サービス産業の企業の海外展開が加速化している。しかも,多くの企業はかつてとは異なり,現地の顧客をターゲットにして現地需要を掘り起こすことを狙っている。

 こうした企業にとっての大きな経営課題の1つに,日本的サービスの国際移転がある。常に顧客の立場に立ち,きめ細かいサービスを提供する日本的サービスは,質の高さで世界最高と評する人もいる。それゆえに,このような日本的サービスを外国人にも訴え提供すれば,感激・感動され,需要獲得につながるという考えが最近とくに増えている。日本国内では2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え,「おもてなし」をはじめとする日本的サービスを外国人観光客に提供しようという動きが活発だ。それを地域の活性化につなげようとする観光地も多い。

 こうした考えや動きの中で,日本的サービスを競争優位の構築につなげ,その国際展開の際に移転しようとする企業も多い。確かに,日本人の特性である「きれい好き」「相手を思いやる心」「安心・安全を大切にする気持ち」などをベースとする日本的サービスは,ある意味では世界的にみても質が高く,それを競争優位とすることは間違ってはいないと思う。しかし,それを過大評価して,簡単に国際移転しようとすると痛い目にあうのは間違いない。

 顧客へのサービス価値は,サービスを提供する者とそれを受ける者との関係によって創られるから,サービスの国際移転にはヒトがカギになるのは言を待たない。サービス業務を担う日本からの派遣社員や現地人材の資質,能力,役割が決定的に重要になる。人間にとって最も重要なことは「心」であるから,海外でも心のこもった日本的サービスを提供し,素晴らしい営業実績をあげた日本人派遣社員は多数いる。また,人間の心や感情は万国共通であるから,海外でも機械的なマニュアルではなく,人間の心や感情を大切にしてサービスを提供している会社もある。このようなスタイルのサービスの提供には,一理があるけれども,現実の国際ビジネスでは,プラスアルファの要因を考慮に入れなければならない。

 加えて,現実には海外でも日本的サービスを体現できる日本人派遣社員の数にも限りがあるので,早晩日本企業は多くの現地人材の育成に迫られることになる。しかしながら,この現地人材の育成には多くの壁がある。

 まず,日本と外国では人々の価値観,習慣,言語,行動様式など文化の違いがある。文化的受容の問題である。相手の心を読んで,先取りするようなきめ細かい日本的なサービスを,「過剰サービス」,「ありがた迷惑」だと感じる人々もいるだろう。また,経済発展段階も国や地域によって違う。経済が成熟段階に達すれば,サービス経済化が進み,人々のサービスに対する価値が高まるが,新興国や発展途上国では商品のサービスよりも低価格が魅力的である。心のこもった接客,利便性,スピードよりも低価格である。労働環境も看過できない要因である。多くの国ではサービスの仕事は一部の業界を除けば,社会的地位が低く,労働者の賃金も低い。したがって,労働者の教育レベルは低く,転職率も高い。それゆえに,優秀な人材を獲得しづらいし,長期的な教育によって人材を育成するにも限界がある。その他,諸々の壁がある。

 日本的サービスの国際移転と現地人材の育成には,このような壁を乗り越えなければならないのである。いうまでもなく,日本的サービスの質が高いからといっても,それが海外でも一様に通用するとは限らない。しかし日本的サービスには国際的ポテンシャルがあるのも事実である。日本的サービスのどの部分が海外でも通用し,どの部分が通用しないのかを吟味する必要があろう。

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