世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.949
世界経済評論IMPACT No.949

習主席の唱える「中華民族の復興」とは何か?(その1)

田崎正巳

((株)STRパートナーズ 代表)

2017.11.13

 5年に1回の中国共産党大会は無事終了したようであるが,この話題がニュースに載るたびに頻繁に目にする文句が「中華民族の偉大なる復興」である。一般の日本人には「また習が大風呂敷を広げているのか」という程度の認識かもしれないが,多少なりともモンゴルやチベット,ウィグルの人たちと縁がある人には「何を言っているんだ,こいつ?」と聞くたびに思うことであろう。

 一般論的に言えば習が言いたいことの概要はわかる。「19世紀以降,中国は欧米諸国に加えて日本からも植民地化や侵略をされたので,遅れた国になってしまった。それを救った共産党が,過去の栄光を取り戻すべく人民を指導して,いつか世界最強の国になるべく復興させる」と国民に言いたいのであろう。

 問題は,わざわざ「中華民族」というのはなぜか? であり,復興とは「いつの栄光に戻るのか?」ということである。当然であるが,この怪しげなスローガンには矛盾,不快感,自己中心的思想が満ち溢れているように見える。

Ⅰ.漢族以外も「中華民族」か?

モンゴル族,チベット族,ウィグル族は中華民族の一部か?

 まずは中華民族について見てみる。私は個人的に「民族」というテーマに興味を持っているので,研究者ではないがそういう関係の本は相当読んでいる方だと思っている。であるが,いくら読んでもなかなか世界共通の「民族とは何かの定義」はないように見える。完全に共通なものはないとはいえ,それでも多くの研究者の間では一定程度の共通認識はあるので,それを参考にする。

 ウィキペディアでは「民族(みんぞく)とは一定の文化的特徴を基準として他と区別される共同体をいう。土地,血縁関係,言語の共有(母語)や,宗教,伝承,社会組織などがその基準となるが,普遍的な客観的基準を設けても概念内容と一致しない場合が多いことから,むしろある民族概念への帰属意識という主観的基準が客観的基準であるとされることもある」とある。

 これに種族的(生物学的)概念が入ったり,エスニシティ(歴史の共有など)をどう含めるかなどでは,議論はいろいろ分かれるようである。

 が,細かいことを別にすれば,上記の定義を使うことで問題ないと思われるので,以下でモンゴル族,チベット族,ウィグル族が「漢人らと同じ中華民族」に含まれるか一つ一つ確認してみる。

土地,血縁関係から見た中華民族

 まず土地である。これは千年単位で明確に分かれていると言える。ここでは「中国共産党の侵略政策で,漢人の居住者数が急増したここ70年前以降のこと」は取りあえず無視することとする。それを考慮したら,民族の話以前の問題になってしまう。

 一つ確認せねばならないのは,陸続きの大陸では大まかなくくりでの民族の居住地はあったものの,その境界地帯は他民族との接続地帯として混合地帯が結構あったというのをまず頭に入れておかねばならないということである。これは島国である日本との決定的な違いである。

 その上で言えば,遊牧民を中心とするエリア(広大なユーラシア乾燥地帯)東部にあるモンゴル高原を中心とするモンゴル族,中国とインドの間にある高原・山間地帯を中心とするチベット族,そしてユーラシア乾燥地帯中部・南部のオアシス地域・トルキスタンを中心としてきたウィグル族の居住地域は,中国・中原の田園地帯を中心としてきた漢人の地域とは明確に分かれている。

 それは中国の歴史の本を見ればだれでもわかることであり,中国史上のほとんどの時代はこれら異民族の土地は「他国」と扱われてきたのである。

 次は血縁関係である。これは土地よりももっと明確に分かれている。ある種の種族と言うか,生物学的なことも含めいわゆる漢族とこれらの3民族は違う。

 例えば日本人にもある「蒙古斑」であるが,これはモンゴル人にはあるが,漢人にはない。一部で「漢人にもある」という人がいるが,それは歴史を学ばないといけない。

 そもそも清も元はもちろん,隋や唐やその前の金も統治者は漢人ではなかったのである。この5王朝は全部北方の遊牧民や遊牧・狩猟系民族の支配による王朝であった。こうした異民族が漢人を支配していたので,混血があったのは当たり前であり,蒙古斑も当然どこの誰に出没するかはわからない。(続く)

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article949.html)

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