世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
技術は一流,ビジネスは二流?
(明治大学教授 教授)
2017.10.09
2017年8月,久しぶりに訪問した上海の印象を『日刊工業新聞』のコラム「卓見異見」に「先進国・中国,後進国・日本」と題して書いた(2017年9月4日付け)。上海空港から短い区間ではあるが,2004年からリニアモーターカーが運行している。一方,日本では1962年に開発が始まったものの未だ実証実験止まりである。翌8月には山梨県立リニア見学センターを見学したが,歴史が古いことを自慢げにアナウンスしていた。友人の技術系コンサルタント・河瀬誠氏によれば「既に時代遅れの技術」ということで,日本では日の目を見ずに終焉するかもしれない。
上海で一番驚いたのは徹底したモバイル社会になっていること。アリペイやウィーチャットペイなどのモバイル決済が普及し,買い物も食事もシェアバイク(自転車)もすべてスマホをかざすだけで済む。現金で支払おうとすると怪訝な顔をされる(なんて遅れた人?)。アリババが開いた「盒馬(フーマー)鮮生」という生鮮食品のスーパー兼配送センターはアリペイのみの支払いである。現在のところ,中国の銀行に口座を持たなければモバイル決済の恩恵に与れないが,消費者にとって便利なことは便利である。一方,アリババやテンセントなどにはネット決済とともにリアル決済の膨大な情報が入ることになる。
シェアバイクなどはスマホなしには解錠できない。企業毎に異なるさまざまな色のシェアバイクが至るところにあり,「30分1元(約17円)」と超格安で利用できるので走っているバイクの9割くらいはシェアバイクである。ちなみに,そのシェアバイクは日米欧のように決められた場所にあるラックに収納するのでなく,好きな所に放置できる。GPSなどの機能で場所が特定できるからだ(移動の情報まで企業は入手可能)。放置バイクが通行の妨げになって,いくつかの都市ではシェアバイクの新規参入を制限しているが,いまや中国全土に広がっており排除できまい。シェアバイクの代表的企業であるモバイクは日本(北海道)や東南アジアに進出しているし,ofoは東南アジアだけでなく欧州4カ国にも進出する。
タクシーもスマホなしには捕まえることができない。滴滴出行の配車アプリをインストールして,そこから呼び出すしかない。街を走っている(止まっている)タクシーに「乗せて」と声かけてもスマホを耳に当てる格好するだけで相手にしてくれない。仕方ないので地図アプリで大きなホテルを探し,そこまでテクテク歩いていくはめになった。大きなホテルにはタクシーが待機しており,配車アプリなしでも乗せてくれるからだ。滴滴出行は,米国や欧州,東南アジアの同業とも出資を含む提携をしているが,UAEのドバイを本拠地に中東・北アフリカで配車サービスを提供するカリームとも提携した。中国ではウーバーを飲み込み,その勢力範囲は世界中に広がっている。
これまで講演などでは,WIPO(世界知的所有権機関)などのデータに基づき「日本の技術力はまだまだ世界の上位にあるが,ビジネスモデルが弱かったり経営の在り方そのものに課題があったりする」と話してきた。つまり「技術は一流,ビジネスは二流」という前提で話してきたのだが,その前提がどうも怪しくなっている。ICTの分野では米国に遅れをとっているものの,日本の技術力はまだまだ世界の上位を走っているという思い込みを捨て去らなければならないのかもしれない。
現在進行中の第四次産業革命の中核はAI(人口知能)だと考えているが,中国はこの分野でも急激に力をつけてきている。中国が2010〜14年の5年間に出したAI関連の特許申請件数は,その前の5年間のほぼ3倍に達している(The Economist, 2017/7/29。『日本経済新聞』2017年8月2日付け朝刊)。新井聖子(東京大学客員研究員)「低下する日本の基礎研究力」(『エコノミスト』2017年9月5日号)には,基礎研究力の指標となる学術論文数において日本が減少していることが述べてある。日本の論文数は,1990年代末には米国に次いで世界2位だったのが,現在は5位にまで転落している。その背景には①理系大学院生の減少,②研究者の内向き化,③基礎研究の東アジア化などがあるとされているが,科学技術人材の育成を担う大学の問題点も大きい。
国際ビジネス研究学会第24回全国大会は,2017年10月28・29日,明治大学で開催される。統一論題を「第四次産業革命と国際ビジネス」として,蒋瑜洁(重慶大学),立本博文(筑波大学)という新進気鋭の研究者に加え,小川紘一(東京大学)という実務界にも学界にも精通するベテラン,それに志賀俊之(日産自動車),久世和資(日本アイ・ビー・エム)という実務界の重鎮を迎えて,このような問題を考えてみたい(敬称略)。
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